1.DCとは:個人の運用成果で受取額が決まる私的年金
DCは、日本の年金制度のうち、企業や金融機関などが運営する私的年金(企業年金や個人年金)の仕組みの1つです。加入者個人が資産運用商品を選択し、その運用成果によって将来の受取額が決まる点が、他の企業年金(DBなど)や個人年金(一般的な個人年金保険など)とは異なります。
DCには、企業が従業員のために制度を用意して掛金を拠出する企業型と、個人が金融機関が用意した制度に加入して掛金を拠出するiDeCoがあります。企業が拠出した掛金は、全額が損金扱いとなり、かつ従業員の所得には含まれません。また、個人が拠出した掛金は、全額が所得控除の対象となります。
ただし、企業型とiDeCoのそれぞれに拠出の限度額があり、運用成果の受取りは原則として60歳以降に限定されています。制限があるのは残念ですが、「老後のため」だからこそ、掛金の全額が所得控除という手厚い税制優遇を受けられる制度になっています。
2.2022年10月の改正ポイント:企業型とiDeCoの併用が容易に
2022年10月に実施されるDC制度の改正のポイントは、企業型とiDeCoの併用が容易になる点です。
改正前の制度で企業型とiDeCoを併用するためには、加入している企業型の規約にiDeCoへの加入を認める内容があり、かつ、企業の拠出額の上限が通常よりもiDeCoの拠出限度額の分だけ引き下げられている必要があります。しかし、この条件を満たす企業が少ないため、企業の拠出額が低い従業員の多くは、拠出可能な額が残っていてもiDeCoに加入できない状態になっています。
改正後の制度では、改正前の制度で必要だった規約の内容や企業の拠出額の上限の引下げが、不要となります。これにより、企業型に加入している人は、企業の拠出額が企業型の拠出限度額を下回っていれば、基本的に(マッチング拠出を行っていない場合は)iDeCoへ加入できるようになります。企業の拠出額が個人別にiDeCoの運営管理機関に情報連携されるため、iDeCoの拠出限度額の範囲内であれば、企業と個人の拠出額の合計が企業型の拠出限度額に達するまで個人で拠出できるようになります。
3.2024年12月の改正ポイント:DBとの併用では拠出限度額が拡大も
2024年12月に実施されるDCの改正のポイントは、DCとDBとの併用では拠出限度額が拡大する場合もある点です。
改正前の制度でDCとDBを併用する場合には、DCの拠出限度額が、併用しない場合よりも一律に月額2.75万円引き下げられています。この引き下げ幅は、DC制度ができた当時の厚生年金基金の平均的な給付水準をもとに決められましたが、現在のDBの加入者1人当たりの掛金額は低く、この引き下げ幅を下回る場合も多く見られます。
改正後の制度では、この引き下げ幅が一律ではなく、それぞれのDBの「掛金相当額」(加入者1人当たりの掛金額に相当する金額)になります。これにより、掛金相当額が月額2.75万円未満のDBに加入している場合は、改正前よりも多くDCへ拠出できます。一方で、掛金相当額とDCの拠出額の合計が月額5.5万円を超える場合は、注意が必要です。企業型DCの規約の掛金かDBの規約の給付設計を見直さなければ、経過措置として、改正前と同じ額を拠出できます。しかし、これらの見直しを行った場合はそれ以降、掛金相当額とDCの掛金の合計が月額5.5万円を超えないように、DCの拠出額を調整する必要があります。
また、改正後の制度では、確定給付型の企業年金を併用する場合のiDeCoの拠出限度額が、改正前の月額1.2万円から2.0万円へ引き上げられます。iDeCoの拠出額と企業型DCの拠出額と確定給付型の企業年金の掛金相当額の合計が月額5.5万円を超えないように調整する必要がありますが、企業型DCの拠出額や確定給付型の企業年金の掛金相当額が少ない場合には、改正前よりも多くiDeCoへ拠出できます。
4.まとめ:政府は中小企業での活用しやすさを重視
政府が運営する公的年金(国民年金や厚生年金)の給付水準(所得代替率)は、段階的に低下していく仕組みになっています。そのため、高齢期の収入源として、就労と私的年金(企業年金や個人年金)の重要性が増しています。
政府は、より多くの人が私的年金に加入できることを目指しており、特に中小企業や中小企業の従業員の加入拡大を目指しています。そのために、前述した2つの制度改正のほか、中小企業向け制度(簡易型DCやiDeCoプラス)の対象範囲の拡大や各種手続きの簡素化などが、すでに実施されています。
従来と比べて使いやすい仕組みになっていますので、今回の制度改正を機に検討する企業が増えることが見込まれます。
(ニッセイ基礎研究所 中嶋 邦夫 保険研究部 上席研究員)
生22-4343,法人開拓戦略室