福利厚生の休暇には、国が法律で企業に義務づけたものと、企業が独自に判断するものがあります。
また、日本国内の企業は一週間の中で2日休ませる「週休2日制」が一般的ですが、働き方改革においてワークスタイルの多様化が求められる影響もあり、トレンドとして「週休3日制」を導入する企業も出てきています。
福利厚生における休暇制度をどのように設計し、社員のエンゲージメントにつなげていくか、検討中の経営者の方はぜひ最後までご一読ください。
*法律上は「休暇」は「休業」と厳密に区別されませんが、一般的な使い分けとして「休暇」は1日単位、「休業」は週や月など「期間」単位と呼び分ける傾向が見られるため、本記事では「休暇」と名のつく一般的な概念に限定して解説します。
1.福利厚生の休暇制度でワークライフバランスの実現が求められる
「働き方改革」の取組推進のため、厚生労働省の「働き方・休み方改善ポータルサイト」が用意されたことからもわかるように、従業員の「働き方」を考えることは「休み方」を考えることと言っても過言ではありません。
休暇についての福利厚生制度は、従業員満足度(ES)やエンゲージメントに大きく影響するものと推定されます。
企業が有給休暇を増やせば、事業運営に回す人的リソースが少なくなるうえ、従業員が勤務した場合と同等の給与を支払うコストがかかりますが、従業員を適切に休ませてリフレッシュさせなければ、怪我や病気、業務上のケアレスミスを招き、事業継続が危ぶまれる可能性があります。
従業員の仕事と生活の両立が図れるよう、ワークライフバランスを意識した福利厚生の休暇制度の設計が企業には求められています。
なお、福利厚生に影響する「働き方改革」については次のコンテンツで詳しく解説しています。
働き方改革を推進する福利厚生とは?取組事例やポイントを解説
2.福利厚生における休暇の種類
福利厚生の休暇の種類にはいくつか分類方法がありますが、まず「法律」という観点で2種類に分かれます。法律で定められた休暇と、それ以外です。
法律上の休暇の種類
名称 |
概要 |
具体例 |
法定休暇 |
企業の義務として従業員に休暇を与えるよう、法律(*)で定められた休暇。 *参照:労働基準法(労基法)|e-Gov、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)|e-Gov |
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特別休暇(法定外休暇) |
企業ごとの判断で導入される休暇。 |
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*表内で例示した休暇については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生の種類には何がある?法律や会社での種別の一覧を解説
「法定休暇」は、基準を満たした従業員に対し、付与することが法律で義務づけられているだけでなく、2019年には確実な取得がなされるような法改正が行われています。
例えば、年10日以上の年次有給休暇が付与される場合、年5日は確実な取得が義務付けられ、取得させなかった場合には30万円以下の罰金が課せられます。
参照:年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説(PDF):p.7|厚生労働省
法律で定められていない法定外休暇は「特別休暇」と呼ばれます。
*以降、本記事では法定休暇との誤認を避けるため、法定外休暇は「特別休暇」と表現します
特別休暇制度の導入には、企業が従業員に対して重要視している思いが反映される傾向があるため、同じような特別休暇であっても企業ごとに名称や対象、付与日数などに違いがあります。
また、休暇を分類する観点として「通常の労働時間の賃金が支払われる休暇」であるか否かも重要です。
有給休暇と無給休暇の比較
名称 |
概要 |
備考 |
有給休暇(有休) |
休んだ日に労働を行ったとみなし、通常の労働時間の賃金を従業員に支払う休暇。 |
どの企業も「年次有給休暇(年休)」は、法定の付与日数分は有給休暇と決まっているため、年次有給休暇を指して「有休」と呼ぶケースもある。 |
無給休暇(無休) |
休んだ日に賃金を支払わない休暇。無給休暇として休む場合には欠勤扱い(*)にはせず、人事評価に影響しない。 |
企業によっては、法定休暇の「生理休暇」や「子どもの看護休暇」、「介護休暇」でも、賃金が支払われないケースがある。 |
(*)欠勤:出社を求められている日に、従業員自身の都合で休むことを指し、従業員への人事評価に影響する。事業者への連絡なしに欠勤することを「無断欠勤」と呼ぶ。
年次有給休暇以外の休暇制度を有休とするか否かは、企業ごとに判断し、就業規則で定めます。
年次有給休暇以外の法定休暇は有休とは法律で定められていないため、これも企業ごとに有休か無休かを設定しますが、無休であっても、休暇付与することで「欠勤」の扱いにしないで済むため、企業と従業員との間の労使契約に違反しない利点はあります。
休暇は1日単位での取得が原則ですが、労使間の合意のもと就業規則に定めれば半日単位や時間単位で取得させることもできます。
休暇の取り方の種類
名称 |
概要 |
備考 |
半休(午前半休・午後半休) |
午前あるいは午後の半日単位て゛取得できる休暇。 |
労使協定の締結の必要はなし。 |
時間休 |
時間単位で取得できる休暇。 |
労使協定の締結の必要あり。「年5日の年次有給休暇の確実な取得」の対象にはならない。 |
ただし、時間単位で取得した年休と特別休暇については、企業に義務付けられた「年5日の年次有給休暇の確実な取得」の対象にはならないため、あくまで1日単位で取得する年次有給休暇の取得を優先させる必要があります。
参照:年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説(PDF):p4|厚生労働省
年次有給休暇の5日分はきちんと1日単位で休ませなければ「年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合」に該当し、労働基準法 第39条第7項の違反として30万円以下の罰金が課せられるため、注意が必要です。
3.週休3日制は給与が減って休暇が増える?
週に2日を休暇扱いにして平日の5日間を営業日に定める「週休2日制」をとる企業が一般的です。
2021年(令和3年)の調査では「週休2日制」を採用している企業割合は 83.5%、休暇日を土日や祝日に固定した「完全週休2日制」を採用している企業割合は48.4%です。
参照:令和3年就労条件総合調査の概況(PDF)「第2表 主な週休制の形態別企業割合」p.5|厚生労働省
ただし、企業規模の大きな企業を中心に、週に3日を休暇扱いにして残りの4日を営業日と定める「週休3日制」を福利厚生として導入するケースが出てきています。
参照:週休3日制 - 多様な働き方の実現応援サイト|厚生労働省
週休3日制は、必ずしも「給与が減って休暇が増える」福利厚生制度というわけではありません。
もちろん、1日8時間勤務の方が、勤務日5日から4日になると2割の給与減になりますが、1日10時間勤務に変更し、勤務日を4日に減らすケースであれば給与はそのまま、勤務日を4日にできます(*)。
*法定労働時間「1日当たり8時間」を超えて労働させるには、月単位で労働時間を調整する「変形労働時間制」または、それと同じ役割を担う福利厚生制度を導入する必要があります。
一方、従業員のライフスタイルは次のように多様化しています。
- 給与が減ってもよいので1日8時間のまま、週休3日にしたい方
- 給与はそのまま、週休3日にしたい方
- 勤務内容として週休2日制の維持を希望する方
そのため、週休3日制を導入するケースでも、業種や従業員本人の都合によって、あり方を選べる形での制度導入が一般的と見られます。
また、企業によっては、給与体系はそのまま、特別休暇を増やすように週休3日制を導入するケースもあります。
その場合、労働時間に対しての給与が上がることから、実質的な賃上げに該当します。
なお、週休3日制について社内で話し合う前段として、休暇と給与の相関関係について関係者に周知したい場合、次の広報チラシは内容がまとまっており、活用しやすいでしょう。
参照:働き方改革応援レシピ No.146 週休3日制の導入で離職防止!~生産性を向上させるための工夫~(PDF)|働き方改革推進支援センター(愛知労働局) - 厚生労働省
週休2日制から週休3日制へのパターン比較
「週休2日制」をとる企業が「週休3日制」にする場合、勤務日と休日のパターンがどう変わるのかを比較しましょう。
週休2日制から週休3日制へのパターン変化
週休2日制 |
週休3日制 |
完全週休2日制:土曜、日曜、祝日のカレンダーのとおりに休日と定め、原則、平日の5日間を勤務日にする。 |
完全週休3日制:土曜、日曜と企業が指定した曜日(例えば月曜)を固定で休日と定め、原則、平日の4日間を勤務日にする。 |
土曜、日曜、祝日は勤務日とし、それ以外の曜日を企業が指定して週2回の休日を定める(祝日は別途、代休にする) |
土曜、日曜、祝日は勤務日とし、それ以外の曜日を企業が指定して週3回の休日を定める(祝日は別途、代休にする) |
土曜、日曜、祝日は勤務日とし、従業員個人の裁量で週2回の休日を選択させる(祝日は別途、代休にする) |
土曜、日曜、祝日は勤務日とし、従業員個人の裁量で週3回の休日を選択させる(祝日は別途、代休にする) |
曜日に関係なく、従業員個人の裁量で週2日の休日を選択させ、それ以外に週5日の勤務日をシフトとして入れる。 |
曜日に関係なく、従業員個人の裁量で週3日の休日を選択させ、それ以外に週4日の勤務日をシフトとして入れる |
週休3日制と同時に導入すべき福利厚生制度
「週休3日制」を導入する場合、月単位で労働時間の辻褄を合わせなければ、実質的な賃金の引下げになってしまうため、同時に勤務時間をコントロールする福利厚生制度を導入するのが必須です。
週休3日制を導入する場合、次のどちらかを選ぶのが一般的と推定されます。
- 月単位で1日の労働時間を平準にする「変形労働時間制」にする
- 従業員個人の裁量で労働の開始時間や終了時間を決める「フレックス勤務制」にする
なお、給与計算や法定休暇の年次有給休暇の日数計算に影響しないよう、勤怠管理の見直しも必要です。
例えば、法定労働時間を1日8時間という前提で「従業員が出勤しているか否か」や「残業があるか否か」等で、月ごとに給与計算や年次有給休暇の日数を算出するシステムやサービスを利用している場合、そもそもの前提条件が変わるため、正確に結果が出力できないトラブルが起こる可能性があります。
もう一つ、必須ではありませんが、週休3日制で同時に導入した方がよい福利厚生制度に「副業の許可」があります。
特に、労働時間の変更なしに行う週休3日制は、実質的な給与引下げにも等しいため、従業員によっては給与が2割減った分を別の手段で稼がなければ生活設計が成り立たない可能性があります。
副業を認めることは本業がおろそかになる危険性は生まれますが、実質的な給与引下げの「週休3日制」を導入するケースで副業の許可がない場合、当然、従業員側の転職が検討されるでしょう。
また、休暇の扱い方という観点では、休暇中の旅先で仕事できる「ワーケーション制度」や、出張や研修の後に休暇をとって余暇を楽しむ「ブレジャー制度」も、議題に上がる可能性があります。
ワーケーション制度やブレジャー制度については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生のレジャーの位置付けはブレジャー制度で変わる?
なお、ワーケーションは「業務をリモートワークで行えること」が前提条件にあるため、リモートワーク制度も同時に検討する必要性が高くなります。
リモートワークは従業員に「働き方」についての新たな選択肢を提供する施策であるため、休暇制度の「休み方」と同時に検討すると、よりエンゲージメントを高めることができるでしょう。
福利厚生におけるリモートワーク制度については次のコンテンツで詳しく解説しています。
リモートワークを福利厚生に導入する方法と在宅勤務支援策を解説
(執筆 株式会社SoLabo)
生22-6465,法人開拓戦略室