長時間労働の是正や雇用形態によらない公正な待遇の確保などを目指し、2019年に内閣府主導で順次施行されている働き方改革により、企業は労働条件や給与のみならず福利厚生の見直しを求められるようになりました。
働き方改革の推進に何故福利厚生の見直しが必要なのか、どのような制度が向いているのかを取組事例を交えて解説します。
1.働き方改革の推進には福利厚生の見直しも必要
働く人が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で「選択」できるようにするため、企業は働き方改革の推進が求められています。
働き方改革を推進するためには、フレックスタイム勤務制度の拡充や同一企業内の不合理な待遇差の改善など、給与や労働時間だけではなく福利厚生の見直しが必要です。
また、同一労働同一賃金の観点から、同一企業内において、正社員と非正規雇用労働者との間で、基本給や賞与などあらゆる待遇について不合理な差を設けることを禁止とされています。
そのため、福利厚生の利用条件などが合理的な範囲内の待遇差になっているか確認が必要です。
他にも、時間外労働を是正するためには、ノー残業デーや時短勤務制度の拡充などの取組みが必要になる場合もあります。
このように、働き方改革を推進するためには、既存の制度の見直しと同時に、新しい福利厚生制度の導入を検討する必要があります。
そもそも働き方改革とは?
働き方改革とは、社員それぞれの事情に応じた多様で柔軟な働き方を選択できるようにするための労働環境の刷新のことで、長時間労働の是正や雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保などを推進しています。
働き方改革を推進する際に重要な以下の8点を法令として整備するため、8本の労働法の改正を行う「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(働き方改革関連法)|e-Gov」が施行されています。
- 時間外労働の上限規制を導入
- 年次有給休暇の確実な取得
- 中小企業の月60時間超の残業の、割増賃金率引上げ
- 「フレックスタイム制」の拡充
- 「高度プロフェッショナル制度」を創設
- 産業医・産業保健機能の強化
- 勤務間インターバル制度の導入促進
- 正社員と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差の禁止
引用:「働き方改革関連法に関するハンドブック 1章 「働き方改革関連法」の全体像」 | 厚生労働省
福利厚生以外にも、就業規則の作成や見直し、労働条件を書面等で交付など、働き方改革を推進する上で必要な取組みは多岐に渡ります。
働き方改革について詳しく知りたい方は、厚生労働省「働き方改革 特設サイト」をご確認ください。
2.働き方改革の推進に適した福利厚生
働き方改革の推進に適した福利厚生は、従業員の多様な働き方をサポートする制度や取組みです。働き方改革は、従業員個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、従業員自ら選択できるようにすることを目的としているからです。
本記事では厚生労働省の「働き方改革ケーススタディ」から、実際に導入事例のある福利厚生制度を3つ紹介します。
- 時間外労働を減らすユニークな取組み
- 従業員のニーズに合った休暇制度
- リモートワークを推進する制度
時間外労働を減らすユニークな取組事例
時間外労働の制限については、働き方改革のポイントに挙げられるほど重要な取組みです。
そのため、時間外労働を減らす取組みとして福利厚生の導入を検討する企業も珍しくありません。
例えば、定時退社でポイントをもらえるポイント制です。取得したポイントが賞与の査定につながるようにすることで、時間外労働の削減につなげた事例があります。
また、福利厚生として業務に役立つ資格取得の支援を行うことで、資格取得者の業務効率が向上した企業もあります。
参照:働き方改革ケーススタディ「時間外労働の削減」 | 厚生労働省
他にも、既存の福利厚生を見直すことで、時間外労働の削減につながる可能性があります。
自社で導入されている福利厚生の利用実績や利用率を調査し、福利厚生が業務効率や意欲向上につながる制度になっているか見直しを検討してみてください。
なお、福利厚生を見直す方法や時期については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生の見直しはどう行う?時期とやり方について解説
従業員のニーズに合った休暇制度
働き方改革を推進する上で、休暇制度に関する福利厚生は重要です。
働き方改革が目指している、働く人が多様で柔軟な働き方を「選択」できるように、従業員のニーズに合った休暇制度が求められているからです。
実際に、働く人が必要性の高いと思う福利厚生の調査(*1)では、「有給休暇の日数上乗せ」や「リフレッシュ特別休暇」などが挙がっています。
(*1)参照:令和2年版厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考える-(本文)全体版 図表1-3-35|厚生労働省
業種 |
休暇制度 |
製造業 |
・勤続5年ごとに特別休暇を付与 |
製造販売業 |
・季節ごとに休暇を取得できるシーズン休暇制度 ・子どもの看護休暇 |
情報通信業 |
・1時間単位の年次有給休暇 |
参照:働き方改革ケーススタディ「多様な休暇制度」| 厚生労働省
例えば、スポーツ用品の製造業を営む企業では、レジャーを好む社員のニーズに応えて、旅行やレジャーなどを楽しみやすいように長期連続休暇の制度を導入しています。
ただし、休暇を取得しやすくするためには、設備や業務内容を見直し生産性向上をさせる工夫が必要になります。
無理な休暇の取得は、長時間労働の原因になってしまう可能性があります。
なお、福利厚生における休暇については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生の休暇とは?種類から週休3日制まで基礎知識を解説
また、レジャーなどを好む社風の場合は、休暇制度とあわせてレジャーに関する福利厚生を検討するのも1つの手段です。
レジャーに関する福利厚生については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生のレジャーの位置付けはブレジャー制度で変わる?
リモートワークを推進する制度
リモートワークは、多様な働き方の実現の一助となる福利厚生で、自宅から勤務する「在宅勤務」やテレワークとも表現されます。
リモートワークを導入した場合、例えば育児や介護などがあり、通勤時間の問題で働けない事例などの解消につながる可能性があり、多様で柔軟な働き方の実現を目的にしている働き方改革を推進することができます。
福利厚生としてリモートワークを導入する場合、例えば、リモートワークで必要な備品の購入費などを一定額まで補助する、会話の機会を作るためにランチミーティングの費用を負担するなど、リモートワークを支援する福利厚生が必要です。
また、環境の整備として、印鑑の押印問題を解決するための決裁業務の電子化や、社内システムへ外部からアクセスする際のセキュリティ強化などを図る取組みも求められます。
参照:働き方改革ケーススタディ 「テレワークの推進」| 厚生労働省
なお、福利厚生におけるリモートワークについては次のコンテンツで詳しく解説しています。
リモートワークを福利厚生に導入する方法と在宅勤務支援策を解説
3.福利厚生で働き方改革を推進するときのポイント
働き方改革には、明確な目的と働き方改革を推進するための制度が用意されています。
そのため、福利厚生を見直す際は働き方改革のポイントを押さえての実行が必要です。
福利厚生で働き方改革を推進するポイントを2つご紹介します。
- 雇用形態で不合理な待遇差を作らない
- 働き方改革推進支援助成金の活用を検討する
雇用形態によって不合理な待遇差を作らない
働き方改革では、正社員やパートアルバイトなど雇用形態が異なる者の間にあらゆる待遇について不合理な差を作らないことが掲げられています。
あらゆる待遇の中に福利厚生も該当するため、実施する制度の利用条件が合理的なものになっているか確認が必要です。
不合理な待遇差を見極める上で、中心となる考え方は「パートタイム・有期雇用労働法」の「均等待遇」と「均衡待遇」です。
均等待遇 |
短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間で、①職務の内容、②職務の内容・配置の変更の範囲が同じ場合は、短時間・有期雇用労働者であることを理由とした差別的取扱いを禁止すること |
均衡待遇 |
短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間で、①職務の内容、②職務の内容・配置の変更の範囲、③その他の事情を考慮して不合理な待遇差を禁止すること |
一部抜粋して引用:「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル」第1章 不合理な待遇差の解消の考え方 | 厚生労働省
次の例は、ガイドラインで示される福利厚生の待遇差として問題にならないものです。
通常の労働者Xと同様の出勤日が設定されている短時間労働者Yに対しては、Xと同様に慶弔休暇を付与しているが、週2日勤務の短時間労働者Zに対しては、勤務日の振替での対応を基本としつつ、振替が困難な場合のみ慶弔休暇を付与している。
引用:「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル」第3章 図表3-16 具体例| 厚生労働省
なお、福利厚生などの待遇差について、社員から説明を求められた場合は、待遇差やその理由について説明が必要です。
説明を行う際は、口頭が基本とされていますが、説明事項をわかりやすく記載した文書を作成した場合は文書の交付でも問題ないとされています。
参照:「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル」第1章 待遇差の説明義務のポイント| 厚生労働省
社員の種別による福利厚生の待遇差については次のコンテンツで詳しく解説しています。
正社員の福利厚生と待遇差がある従業員がいるときに必要な対応とは?
働き方改革推進支援助成金の活用を検討する
新たな福利厚生を用意する際に企業が活用できる、働き方改革推進支援助成金が用意されています。
助成金は、条件を満たす事業を支援する制度で、福利厚生の導入にかかる費用の企業負担を減らせる可能性があります。
例えば、働き方改革推進支援助成金では、特別休暇の導入を検討するために、外部コンサルタントへ就業規則の見直しを依頼する費用が支援対象になる可能性があります。
他にも、用意する福利厚生の内容によっては、「業務改善助成金」「キャリアアップ助成金」が対象になる可能性もあります。
福利厚生に利用できる助成金については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生を助成金で運用するのに向いている施策や制度とは?
(執筆 株式会社SoLabo)
生22-6466,法人開拓戦略室