大企業の福利厚生は、人材の定着や雇用を目的とした福利厚生を重視する傾向がみられます。
人材定着を目的とした福利厚生を導入するために、大企業の福利厚生で重視されることや大企業が導入している福利厚生の例を確認しておきましょう。
なお、本記事で使用する「大企業」は、(中小企業の事業活動の機会の確保のための大企業者の事業活動の調整に関する法律|e-Gov)の定義に基づきます。
1.大企業が人材の定着を目的とした福利厚生を目指すには?
大企業は人材の定着を目的として、福利厚生の導入や見直しを検討する傾向があります。
何故なら、大企業ほど福利厚生制度が企業の採用広報に影響するからです。
優秀な人材が複数の大企業と比較検討する際、福利厚生は「社員をどう扱う会社か」を見定める指標になるため、大企業の福利厚生には世間一般的に提供される制度よりも「違い」を生み出すプラスアルファの要素が求められます。
例えば、優秀な人材を惹きつける福利厚生として、大企業では週休3日制を取り入れたり、リモートワークを主流にして職場への出勤を「出張」の扱いにしたりするケースが見られます。
今、社員や社員となる人の関心は、働き方改革に関連して「ワークライフバランス」にあり、働きやすさの向上する福利厚生が支持されていると言えます。
働き方改革と福利厚生については次のコンテンツで詳しく解説しています。
働き方改革を推進する福利厚生とは?取組事例やポイントを解説
大企業の福利厚生は「質」と「社員ニーズ」を重視する
大企業が福利厚生を考えるなら、やみくもに福利厚生制度の種類を増やして「量」で勝負するのではなく、「質の向上」と「社員ニーズの一致」を重視することが大切です。
例えば、国の定める年次有給休暇の日数に年休を上乗せすることは、既存の福利厚生のため目新しいとは言えません。しかし常に注目度の高い福利厚生を更に手厚くすることは「質の向上」として上策と言えるでしょう。
また、福利厚生は利用実績や利用率が重要で、採用広報として社外に福利厚生のデータを定期的に公表できれば、会社の透明性や信頼性につながります。
例えば年次有給休暇は、基準を満たした従業員に対して、確実に取得(年10日以上付与される場合は年5日を確実に取得)させることは法的義務であり、第一段階として社内で利用実績を把握する必要があります。
参照:年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説(PDF):p.7|厚生労働省
社内で把握した利用実績のデータを、社外に公表しても問題ないレベルの年次有給休暇の取得率であれば「福利厚生の良い会社」と言えるでしょう。
福利厚生の利用率については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生の利用率が低い時に向上させる対処法を解説
また、把握が義務化されているもの以外にも、リモートワークや在宅勤務の活用等による出勤者数の削減の実施状況について、積極的に公表する姿勢が求められています。
参照:出勤者数の削減に関する実施状況の公表・登録|経済産業省
内情を公表できるほど「福利厚生の良い会社」になるためには「社員のニーズ」を探り、常に福利厚生を刷新する仕組みが必要です。
なお、福利厚生が良い会社の基本については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生が良い会社とは?特徴や制度を解説
大企業は福利厚生を導入させた後、常に利用率や利用実績をチェックし、利用されなくなった福利厚生は廃止や変更を検討するよう「見直しができる社内体制」が求められると言えるでしょう。
福利厚生の見直し方については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生の見直しはどう行う?時期とやり方について解説
大企業は福利厚生費が比較的大きい傾向がある
大企業は中小企業と比較すると、社員一人あたりの福利厚生費(法定福利費+法定外福利厚生費)が増える傾向にあります。
実際、企業規模が「1000人以上」の会社では、法定福利費の1人1カ月平均が「54,348円」に対して、「100~299人」の企業では、「48,024円」という調査結果でした。
また、法定外福利費用の1人1カ月平均では、企業規模が「1000人以上」の会社では「5,639円」、「100~299人」の企業では「4,546円」という調査結果でした。
参照:(4)法定外福利費 令和3年就労条件総合調査の概況|厚生労働省
なお、福利厚生費については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生費とは?定義や類語との違いから非課税要件まで解説
注意したいのは社員一人あたりにかける福利厚生費が高ければ、社員の福利厚生に関する満足度が高くなるとは限らないという点です。
福利厚生をアウトソーシングしたまま、社員の利用実績や利用率など調べたり振り返りを行わない会社の場合、社員ニーズがなく、ほとんど使われていないまま月額固定で福利厚生の費用の支払いが続いているケースもあります。
利用されない福利厚生制度の種類の豊富さを誇っても、利用されなければ、社員満足度が上がることはありません。
そのため、福利厚生を用意する際は、社員のニーズが高く、満足度に影響を与えられる制度を検討する必要があります。
福利厚生の満足度については次のコンテンツで詳しく解説しています。
従業員満足度が高くなる福利厚生とは?
なお、大企業ほど非正規社員の種類も多様です。社員の種類によって合理的な待遇差をつけないと福利厚生費がかかりすぎるため、よく検討する必要があります。
社員の種類と福利厚生の待遇差については次のコンテンツで詳しく解説しています。
正社員の福利厚生と待遇差がある従業員がいるとき必要な対応とは?
大企業は福利厚生のアウトソーシングの導入率が高い
福利厚生のアウトソーシングとは、会社が一部の福利厚生を外部委託して費用負担し、社員へ福利厚生サービスを提供することです。
企業規模が大きくなるほど福利厚生のアウトソーシングを行う会社が多くなる傾向があります。
次の表は、会社が雇用する社員数で区分した福利厚生のアウトソーシング実施率です。
社員数 |
実施率 |
30人未満 |
10.9% |
30~99人 |
13.7% |
100~299人 |
31.2% |
300~999人 |
33.7% |
1000人以上 |
37.5% |
計 |
15.0% |
参照:「企業における福利厚生施策の実態に関する調査」 参考|厚生労働省
社員数が多いほど福利厚生制度の管理が煩雑になるため、担当部門の負担を軽減させる、または多様な福利厚生ニーズに応えるためにサービス数を増やす狙いから、福利厚生のアウトソーシングの利用率が高くなっていると推察されます。
なお、福利厚生のアウトソーシングについては次のコンテンツで解説しています。
福利厚生のアウトソーシングとは?市場規模と種類とメリットを解説
社員のニーズを把握した上で、福利厚生を増やすのであれば、社内で福利厚生制度の仕組みを検討するより、アウトソーシングの方がコストパフォーマンスに優れていると言えます。
ただし、社員ニーズは日々移り変わるため、外部委託先に任せきりにするのではなく、利用実績や利用率をチェックし、定期的に見直しできる社内体制は維持しましょう。
2.大企業が導入している福利厚生の例
厚生労働省の各ポータルサイトで公開されている、大企業が導入している福利厚生を紹介します。
業種 |
実施している福利厚生 |
製造業 社員数:4,823 |
【柔軟な働き方を実現】 「テレワーク勤務制度」を整備し推進。また、「フレックス勤務制度」を導入し利用人数を拡大している。 |
金融業 |
【ワークライフバランス】 5営業日連続で取得できる「連続休暇制度」や本人または家族の記念となる日に取得できる「記念日休暇制度」などを導入。有給休暇の取得率が向上した。 |
家電製品小売業 社員数:4,826 |
【治療と仕事の両立支援】 両立支援のための「相談窓口の設置」 |
金融・保険業 |
【育児と仕事の両立支援】 子どもが3歳になるまで使用可能な「育児休業制度」 |
情報通信業 |
【自己啓発支援】 |
大企業の福利厚生としては、やはり「生活と仕事の両立支援(ワークライフバランス)」や「人材の定着」、「働き方・働きやすさ」などが会社が重視する項目への取組として導入されています。
働き方の柔軟性を大きく変える「リモートワーク」(テレワーク)は、業種によって導入難易度が異なります。
福利厚生におけるリモートワーク(テレワーク)については次のコンテンツで詳しく解説しています。
リモートワークを福利厚生に導入する方法と在宅勤務支援策を解説
ワークライフバランスは「働き方」以上に「休み方」も重要です。
福利厚生における休暇については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生の休暇とは?種類から週休3日制まで基礎知識を解説
ワークライフバランスの前提となる「健康」に関する福利厚生も、根強い人気があります。
福利厚生と健康については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生で健康支援が重要視される理由や制度と施策例を解説
なお、厚生労働省から、それぞれの目指す目的に応じた取組内容や実行の流れなどの情報を提供されているため、福利厚生制度の導入を検討する場合、参照サイトから確認しましょう。
参照サイト
- 働き方・休み方改善ポータルサイト「取組・参考事例検索」|厚生労働省
- 治療と仕事の両立支援ナビ 「両立支援の取組事例」| 厚生労働省
- 女性の活躍推進・両立支援総合サイト「女性活躍・両立支援事例集トップ」|厚生労働省
- 若者が定着する職場づくり 「取組事例」|厚生労働省
(執筆 株式会社SoLabo)
生22-6591,法人開拓戦略室