「社員の福利厚生のために使った費用は福利厚生費に計上する」という基本は知っていても、類語との差異や要件も含め、きちんと「福利厚生費」を理解できているでしょうか。
福利厚生費は、「福利費」や「厚生費」など似たような言葉があるだけでなく、文脈や立場によっても意図が異なるために「わかりにくい」印象を与える言葉です。
本記事では経営者向けに、福利厚生費の定義や類語との違い、福利厚生費の非課税要件、よくある質問として福利厚生費の平均額や上限額、各種手当と福利厚生の関係なども解説します。
1.福利厚生費の定義
福利厚生費とは、会社が「給与以外に従業員のために使う費用や勘定科目」を指します。
福利厚生費がわかりにくい原因は、福利厚生費には広義と狭義の意味が近い文脈で使われる点にあります。
まず、広義の福利厚生費として扱われるのは次の費用です。
- 社会保険の企業負担分の費用(法定福利費)
- 結婚祝や弔慰金などの慶弔見舞金
- 資格取得や研修費用などの学資金
- 福利厚生として支給する食事代の企業負担分
- 借り上げ住宅の貸与制度がある場合の住宅費の企業負担分
- 社員の自宅から職場まで通勤する際にかかる通勤交通費
- 定期健康診断にかかる費用
- 作業服や安全靴などの支給を含めた作業環境を調える費用
- 社員旅行や社内の行事にかかる費用や記念品代
福利厚生の中でも、法律で企業の義務と定められた社員の社会保険医療などにかかる費用は、“法律で定められた(=法定)幸福と利益(=福利)のための費用”として「法定福利費」と呼ばれ、非課税取引です。
参照:No.6209 非課税と不課税の違い|国税庁
法定福利費、つまり、社員の社会保険についての費用は会社が負担するものと労働基準法で定めています。
法定福利厚生については次のコンテンツで詳しく解説しています。
法定福利厚生とは?種類や費用負担を解説
企業の判断で提供される福利厚生の費用、つまり“法律が定めた範囲外(=法定外)で、幸福と利益(=福利)のための費用”は「法定外福利費」と呼ばれますが、狭義の「福利厚生費」とも呼ばれます。
国税庁の示す指針等を参照して「社会通念上相当」の範囲内と認められれば「法定外福利費」あるいは「福利厚生費(狭義)」として計上でき、費用は非課税で扱われます。
つまり、「福利厚生費(広義)」は、非課税取引の「法定福利費」と「福利厚生費(狭義)」をあわせたものを指すのです。
福利厚生費は「福利費」や「厚生費」と同じ意味?
文脈によっては「福利厚生費=福利費」ではないケースがあり、必ずしも同じ意味とは限りません。
まず、「福利費」と表現する場合には次のケースが考えられるため、文脈を読み違えないようにする必要があります。
- 広義の「福利厚生費」の省略形と考えられるケース
- 狭義の「福利厚生費」(=法定外福利費)として扱うケース
- 「法定福利費」の省略形と考えられるケース
なお、「厚生費」は、生活を健康で豊かにする「厚生」を強調した省略形で、「福利厚生費」を指しますが、福利厚生費に広義と狭義があるため、こちらも注意が必要です。
福利厚生費と交際費との違い
交際費は、国税庁の表現を引用すると「得意先や仕入先その他事業に関係のある者に対する接待、供応、慰安、贈答などの行為のために支出する費用」です。
カッコ内引用:No.5261 交際費等と福利厚生費との区分|国税庁
一方、福利厚生費はあくまで社内向け、従業員に対して使う費用です。
例えば、費用を使う目的が社外との交流の場合、福利厚生費には計上せず、交際費に計上します。
福利厚生費と消耗品費との違い
消耗品費は、電池や文房具、用紙など「業務上必要で短期間に使い果たす物品」の購入費用、または計上する際の勘定科目を指します。
ただし、業務には直接関係しないものの、作業環境の向上のために必要な使い果たす類の物品は、福利厚生費として扱います。
作業服や作業靴などが上記の例です。
什器備品は「減価償却費」になるので注意
作業環境の向上に必要でも、一組のデスクや椅子、カーテン一式などの日常的に使う家具や調度品は「什器備品(じゅうきびひん)」と呼ばれ、消耗品費や福利厚生費としては扱いません。
「使用できる期間が1年未満、あるいは取得価額が10万円未満の什器備品」の購入費用は、少額の減価償却資産として判定され、減価償却費として扱います。
参照:No.5403 少額の減価償却資産になるかどうかの判定の例示|国税庁
また、減価償却は什器備品の種類や使用目的によっても法定耐用年数が異なります。
参照:主な減価償却資産の耐用年数表(PDF)|国税庁
法定耐用年数の方が什器備品の製品としての寿命が長い場合、購入するよりもリース・レンタルした方が適正に損益計上できるため、一般的には良いとされます。
なお、オフィスリモートワークなどで従業員が在宅勤務を行うときに必要な什器備品の扱いについては、別途、国税庁から指針が出ています。
参照:在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)|国税庁
福利厚生におけるリモートワークについては次のコンテンツで詳しく解説しています。
リモートワークを福利厚生に導入する方法と在宅勤務支援策を解説
2.福利厚生費の非課税要件
本項目では福利厚生費(狭義)にする要件について解説します。
まず福利厚生費は、前提として「福利厚生に使う費用」と認められる必要があります。
福利厚生は原則、社員に対して「均等待遇」で、かつ待遇改善に使った金額が「社会通念上相当」とみなされなければなりません。
福利厚生の基本要件については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生とは?定義やメリットを経営者向けにわかりやすく解説
原則、給与所得に等しい現金の支給は福利厚生費として認められにくい傾向があります。
参照:No.2508 給与所得となるもの|国税庁
ただし、慶弔見舞金や学資金など要件を満たせば非課税にできる「特殊な給与」や、食事や制服を支給するなどの「現物」を渡す「現物給与」とみなされる条件に当てはまると、現金の支給であっても、福利厚生費に計上できます。
福利厚生費となる特殊な給与の例
区分 |
取扱い |
備考 |
慶弔見舞金 |
慶事の結婚・出産等の祝金、弔事の葬祭料や香典、災害見舞金等、社会通念上相当の金額であれば非課税で福利厚生費に計上できる。 |
福利厚生の原則として、社員が条件に当てはまれば支給されるように「均等待遇」である必要がある。 |
学資金 |
研修受講や資格取得などの学資金は、役員と親族でない等の要件を満たした場合は非課税で福利厚生費に計上できる。 |
参照:No.2588 学資に充てるための費用を支出したとき|国税庁 |
表作成時に参照:Ⅱ 給与所得の範囲 (PDF) - 2 特殊な給与等|国税庁
なお、「福利厚生費となる特殊な給与の例」でご紹介した内容について、もっと詳しく知りたい方は次の関連記事をご参照ください。
福利厚生での「旅行」については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生の旅行費用が経費と認められる要件と費用補助の考え方を解説
福利厚生における「慶弔見舞金」については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生の見舞金とは?慶弔災害の種類と相場と制度導入する方法
現物給与とみなされる条件
- ① 職務の性質上欠くことのできないもので主として使用者側の業務遂行上の必要から支給されるもの
- ② 換金性に欠けるもの
- ③ その評価が困難なもの
- ④ 受給者側に物品などの選択の余地がないもの(一部略)
- ⑤ 政策上特別の配慮を要するもの
引用:No.2508 給与所得となるもの:現物給与|国税庁
現物給与の例
区分 |
取扱い |
備考 |
食事の現物支給 |
社員の食事についての費用を負担する。 一人あたり月額3,500円まで、食事の価格の50%以上の対価を給与所得者から徴収している場合は「食事の現物支給」とみなされ、非課税。 |
参照:No.2594 食事を支給したとき|国税庁 単に現金で社員の食事代を支払う「食事手当」は原則、課税される。 また、社外の取引先を接待する目的の食事は交際費にあるため、福利厚生費に計上しない。 |
借上げ社宅の貸与(家賃補助) |
会社が借り上げた社宅を社員に貸す場合、一定額を家賃として受け取った場合の差額を「家賃補助」として会社が負担する。 社員から賃貸料相当額の50%以上、家賃と賃貸料相当額との差額は、家賃補助として「現物給与」となり、非課税(*2)。
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参照:No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき|国税庁 *2:役員の場合は社宅の規模の大小、役員の所有か否かで賃貸料相当額を算出する計算式が変わる(参照:No.2600 役員に社宅などを貸したとき|国税庁) なお、現金で支給される「住宅手当」は課税される。 |
制服等の支給 |
社員が業務のために着用する義務のある制服や作業服などの衣服、帽子、靴など身の回りの品は「現物給与」とみなされ、非課税。 |
滞りなく業務遂行に必要な衣服は、正規社員はもちろん、非正規社員に対しても支給する。社員の種類で待遇差がある場合は是正義務がある。 |
社内行事やレクリレーションの費用負担 |
社会通念上相当とされる要件を満たした社内行事やレクリレーションの費用、社内旅行にかかる旅費について、会社の費用負担分は非課税。 |
参照:No.2603 従業員レクリエーション旅行や研修旅行|国税庁 なお、事業に直接関係する旅費も非課税ではあるが、福利厚生費ではなく旅費交通費に計上する。 |
健康診断の費用負担 |
一定の要件を満たした健康診断、社会通念上相当の内容や頻度での人間ドックについての会社の費用負担分は福利厚生費として非課税。 |
参照:人間ドックの費用負担|国税庁 |
記念金の支給 |
社会通念上相当の対象や金額等の要件を満たした記念品を支給する場合は「現物給与」として非課税。 |
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社販品の割引 |
社員に対して、一定の要件で自社の商品、製品等の値引販売で行う場合、非課税。 |
参照:〔給与等に係る経済的利益〕-(課税しない経済的利益……商品、製品等の値引販売)|国税庁 |
表作成時に参照:Ⅱ 給与所得の範囲 (PDF) - 3 現物給与の取扱い|国税庁
なお、「特殊な給与の例」でご紹介した内容について、もっと詳しく知りたい方は次の関連記事をご参照ください。
食事の現物給与を含めた福利厚生のランチサポートについては次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生でランチをサポートするなら?食事支給と費用補助を解説
福利厚生における家賃補助については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生の家賃補助の費用相場や支給する対象と条件を解説
福利厚生における健康診断については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生の健康診断とは?種類や対象社員、経費の計上方法を解説
3.福利厚生費に関するよくある質問
福利厚生費に関するよくある質問として、次の内容を解説します。
福利厚生費の平均額は?どれほど費用がかかる?
福利厚生費の上限額は?いくらまで計上できる?
各種手当は福利厚生費に計上できる?
個人事業主でも福利厚生費に計上できる?
非正規の従業員の分も福利厚生費に計上できる?
福利厚生費の平均額は?どれほど費用がかかる?
福利厚生費(広義)の平均額は、それぞれ「法定福利費」と、会社ごとに異なる「法定福利費」に分かれた統計データから算出できます。
2021年(令和3年)度の法定福利費の社員一人あたりの平均額は50,283円です。
参照:令和3年就労条件総合調査の概況「第18表常用労働者1人1カ月平均法定福利費」| 厚生労働省
2021年(令和3年)度の法定外福利費の社員一人あたりの月の平均額は、4,882円です。
参照:令和3年就労条件総合調査の概況「第19表常用労働者1人1カ月平均法定外福利費」| 厚生労働省
法定福利費と福利厚生費(狭義)の平均額の内訳については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生の平均費用はいくら?中小企業でよくある制度や施策も解説
福利厚生費の上限額は?いくらまで計上できる?
法律として福利厚生の上限を定める上限額が定められているわけではないため、いくらでも福利厚生費に計上しようと思えばできるように思えます。
しかし、福利厚生費として「社会通念上相当」とみなす目安は、上の一覧表「現物給与とみなされる手当の例」でもご紹介しているとおり、それぞれのケースで国税庁による指針が出されています。
国税庁の指針に従わないと福利厚生費が非課税にならないため、節税効果を狙うのであれば、国税庁が示す「社会通念上相当」の金額が福利厚生費の上限と言えます。
各種手当は福利厚生費に計上できる?
給与と一緒に支給される「手当」は、社員の職務や勤務条件などの待遇差を是正する福利厚生の一種としてみなされますが、原則、福利厚生費に計上できません。
参照:No.2508 給与所得となるもの|国税庁
ただし、「現物給与」あるいは「現物支給」とみなされる一部の手当については、所得税法上、給与として課税されず非課税になり、福利厚生費に勘定できます。
現物給与とみなされる手当の例
区分 |
取扱い |
備考 |
通勤手当(電車・バス、有料道路を利用等) |
社員が公共交通機関を利用して自宅から勤務地まで通勤するのにかかる費用を負担する。 1カ月あたりの合理的な運賃等の額(非課税限度額)の最高限度 は150,000円(*1)。 交通用具と公共交通機関を併用する場合、あわせて150,000円が限度となる。 |
参照:通勤手当の非課税限度額の引上げについて(平成28年4月)|国税庁 *1:税改正により平成28年(2016年)1月から適用 |
通勤手当(自動車や自転車などの交通用具を使用) |
社員が交通用具を利用して自宅から勤務地まで通勤するのにかかる費用を負担する (通勤距離が片道2km未満の場合、1カ月あたりの非課税限度は全額課税だが、通勤距離によって非課税となる金額が変わる。最高限度は通勤距離が片道55km以上である場合の31,600円)。 |
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食事手当 |
深夜勤務を行う社員に対する夜食の現物給与、または夜食の代替に給与に加算して食事手当を支給する場合は1回あたり300円以下は非課税となる。 |
参照:No.2594 食事を支給したとき|国税庁 |
宿日直手当(宿直手当・日直手当) |
夜間(宿直)や昼間(日直)に指定の場所に留まり、緊急性の高い業務や巡回などの業務を行う社員に支給する。 1回あたり4,000円(食事が出る場合は4000円から差し引いた残額)以下は非課税となる。 ただし、宿日直の業務が専任であるケースや代休を与えているケースなどは課税対象になる条件もある。 |
参照:法第28条《給与所得》関係 -(宿日直料)|国税庁 |
表作成時に参照:Ⅱ 給与所得の範囲 (PDF)|国税庁
なお、現物給与とみなされない手当については、給与と同様に取扱い、課税されます。
現物給与とみなされない手当の例
区分 |
取扱い |
備考 |
住宅手当 |
給与と同じタイミングで一律で支給される住宅関連の手当は給与として課税し、福利厚生費に計上できない。 |
ただし、家賃補助とみなされるケースで、会社の家賃負担分は非課税。 |
休業手当 |
社員の休業に際し、会社から支給される手当は給与として課税し、福利厚生費に計上できない。 |
参照:No.1905 労働基準法の休業手当等の課税関係|国税庁 ただし、労働災害(労災)にあった社員に対し、労災保険から支払われる「労災補償」は非課税。 |
参考まで補足すると、給与と課税される手当は、社員が従事する業務内容と事業への関連性によって計上する費用(勘定科目)が変わります。
事務や研究など間接部門の社員の給与手当は「販売費」及び「一般管理費」で、事業や生産に直接関わる業務に従事する社員の給与手当は製造原価としての人件費にあたる「労務費」で処理します。
個人事業主でも福利厚生費に計上できる?
福利厚生はあくまで「社員に対する待遇」であり、個人事業主とその家族は経営側に当るため、家族以外の社員を雇っていない個人事業主は、労働環境を整えた費用を福利厚生費に計上できません。
厳密には、福利厚生費の勘定科目にすることはできていたとしても、非課税にすることができません。
個人事業主の福利厚生費については次のコンテンツで詳しく解説しています。
個人事業主が福利厚生費で計上できる条件と基本をポイント解説
非正規の従業員の分も福利厚生費に計上できる?
パートタイム・アルバイトなどの非正規の従業員についても、一般社員と同等の労働時間であるなどの一定の労働条件を満たす場合、福利厚生で同等の待遇を受けるべきとされています。
参照:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)|e-Gov
そのため、非正規の従業員の福利厚生を調えるのにかかった費用も、福利厚生費として計上できます。
また、一定の労働条件を満たさないケースでも、福利厚生施設の利用や作業服や作業靴などの支給など、労働時の安全確保などの福利厚生の目的によっては、一般社員と福利厚生の待遇差がある場合は是正する義務があります。
社員の種類と福利厚生の待遇差については次のコンテンツで詳しく解説しています。
正社員の福利厚生と待遇差がある従業員がいるとき必要な対応とは?
(執筆 株式会社SoLabo)
生22-6588,法人開拓戦略室