充実した福利厚生は従業員を大切にする企業姿勢の表れであり、従業員としても家計や健康をサポートしてくれる福利厚生は魅力的です。今後は人材不足がますます深刻になると考えられるため、
従業員の採用や定着という意味でも福利厚生は重要
になってきます。ただ、せっかく制度を整備しても使ってもらわなければ意味がありませんから、福利厚生を検討する際は次の3つを実践してみてください。
- 代表的な福利厚生を知り、自社に足りないものを把握する
- 従業員のニーズを把握し、制度の内容を検討する
- 従業員や求職者に、自社の福利厚生を分かりやすくPRする
これらについて説明していくので、貴社の福利厚生の見直しにお役立てください。
1.福利厚生とは
福利厚生とは、
従業員の生活や職場環境をより良くするための報酬やサービスの総称
で、次の2つに大別できます。
- 法定福利厚生:法律で定められている社会保険と労働保険で、提供は義務
- 法定外福利厚生:企業が独自に設定する住宅手当、人間ドック補助など
法定福利厚生にきちんと対応しつつ、法定外福利厚生を充実させることで、次のようなメリットが期待できます。
- 人材採用:優秀な人材の獲得に寄与
- 人材定着:働きやすい職場環境の実現を通じた定着率の向上
- 企業イメージの向上:「従業員を大切にする企業」としてのイメージの浸透
では、法定福利厚生と法定外福利厚生の詳細を確認していきましょう。
2.法定福利厚生とは
法定福利厚生には、社会保険と労働保険とがあります。企業は法律で定められた保険料などを負担する義務があります。
1)社会保険
社会保険とは、健康保険、介護保険、厚生年金保険のことです。
- 健康保険:傷病、出産、死亡などに対応。企業と従業員は健康保険料を負担
- 介護保険:介護に対応。企業と従業員は介護保険料を負担
- 厚生年金保険:老齢、障がい、死亡などに対応。企業と従業員は厚生年金保険料、子ども・子育て拠出金を負担
2)労働保険
労働保険とは、雇用保険、労災保険のことです。
- 雇用保険:失業、雇用継続などに対応。企業と従業員は雇用保険料を負担
- 労災保険:労働災害に対応。企業は労災保険料、一般拠出金を負担
3.法定外福利厚生とは
法定外福利厚生は企業が独自に実施するもので、さまざまなメニューがあります。ここでは「従業員の何をサポートするか」に着目し、7種類に分類しています。
1)「家計」をサポート
従業員の家計負担が軽くなるよう支援します。
- 住宅手当:家賃などに応じて手当を支給
- 社宅・寮:住居を貸与。家賃が安い
- 家族手当:扶養家族の数などに応じて手当を支給
- 慶弔見舞金:結婚や出産、傷病、死亡などの際に祝金、見舞金、弔慰金などを支給
- 団体保険:企業が保険契約者となり、従業員の傷病、死亡などを保障。お手頃な保険料
団体保険については、日本生命でも「みんなの団体定期保険」をご提供しています。通常の団体保険は「企業規模が大きくないと契約できない」「事務手続きなどの負担がある」などのデメリットがありますが、「みんなの団体定期保険」の場合、
- 従業員50人規模の企業でも契約できる
- 企業の労務担当者の事務手続きが簡単にできる
といった特徴があります。興味がある方は、こちらの資料をご参照ください。
2)「健康」をサポート
従業員が病気になるのを予防し、健康に働けるよう支援します。
- 人間ドック補助、予防接種補助:人間ドックや予防接種の費用を企業が負担
- 健康指導:保健師による保健指導、スポーツインストラクターによる運動指導など
- 健康管理アプリ:歩数計アプリによる運動不足の解消、AIによる健康アドバイスなど
- 施設の利用割引:法人契約により低料金でフィットネスジムを利用できるなど
- 食事提供:健康食品の社内販売、従業員の自宅への宅配など
3)「育児や介護」をサポート
従業員が働きながら、無理なく育児や介護をできるよう支援します。
- 社内託児所、授乳室:社内に託児スペースや授乳のための個室を設置
- 育児代行サービス:法人契約により低料金でベビーシッターを利用できるなど
- 法定を上回る休暇、休業:育児休業、介護休業、子の看護休暇、介護休暇など
4)「旅行やレジャー」をサポート
従業員が充実したプライベートを過ごし、リフレッシュできるよう支援します。
- 社内活動の費用補助:懇親会や部活動費の費用を企業が負担
- 施設の利用割引:法人契約により低料金で飲食店や宿泊施設を利用できるなど
- 法定を上回る休暇、休業:年次有給休暇
- 会社独自の休暇、休業:リフレッシュ特別休暇(長期勤続休暇)、夏季休暇など
なお、前述した「みんなの団体定期保険」では、健康、育児や介護、旅行やレジャーに関連する付帯サービスを実施しています。例えば、人間ドック補助や介護施設の情報提供などが受けられる「ヘルスケアサポート」、飲食店や遊園地を特別価格でご利用いただける「各種優待割引サービス」などがありますので、以下の資料でご確認ください。
5)「自己啓発」をサポート
従業員の自己啓発に係る費用負担を軽くし、学習がはかどるよう支援します。
- 通信教育補助:業務に活かせる通信教育を受講する場合、受講費用を企業が負担
- 書籍購入補助:業務に活かせる書籍を購入する場合、購入費用を企業が負担
- 資格取得手当、報奨金:業務に活かせる資格を取得した場合、手当や報奨金を支給
6)「財産形成」をサポート
従業員が老後の生活のためなどに財産を増やせるよう支援します。
- 財形貯蓄:給与からの控除で毎月決まった金額を積立てる制度。一部税制優遇あり
- iDeCo+(イデコプラス): iDeCo(イデコ)に加入している従業員の加入者掛金に追加する形で、企業が掛金を拠出できる制度。税制優遇あり
- 選択制DC:給与の一部を企業型DCの掛金に変換できる制度。税制優遇あり
7)その他
1)から6)以外にも次のような福利厚生があります。
- 通勤バス、駐車場:従業員専用の送迎バスの運行、マイカー通勤用の駐車場の貸与など
- 永年勤続表彰:勤続年数に応じて従業員を表彰し、記念品などを授与する制度
- 社員旅行:従業員への慰労として、企業が旅行を企画、実施
4.福利厚生の費用の相場は?
福利厚生で気になるのは、福利厚生にどれくらいの費用をかけるかということです。ここでは、厚生労働省「就労条件総合調査」の労働費用(企業が従業員を雇用することで発生する費用)に着目してお話しします。
1)福利費生の費用は増えている? 減っている?
まずは、従業員(常用雇用)1人1カ月当たりの平均労働費用について、2015年と2020年のデータを比較してみましょう。労働費用のうち、福利厚生に関連する主なものは、
- 現金給与額の一部(住宅手当など、給与として支給するもの)
- 法定福利費(法定福利厚生の費用)
- 法定外福利費(法定外福利厚生の費用)
です。
図表1を見ると、2015年から2020年にかけて現金給与額、法定外福利費は減少、法定福利費は増加しています。
- 現金給与額、法定外福利費の減少については、経済状況の変化やパート等の増加により報酬、サービスの平均値が押し下げられたことなど
- 法定福利費の増加については、社会保険料率が改定されたことなど
が背景にあると考えられます。
2)企業はどの福利厚生に費用をかけている?
福利厚生の費用で、企業がコントロールできるのは法定外福利厚生です。そこで、引き続き「就労条件総合調査」から、2020年の法定外福利費の内訳を紐解いていきましょう。
企業規模計で法定外福利費が最も高い項目は、住居に関する費用(社宅、寮の費用など。住宅手当は含まない)の2,509円で、企業規模別でも100人以上の企業では同じ傾向が見られます。「従業員の日々の生活の場だからこそ、住居についてはなるべく支援を手厚くしたい」と考える企業が多いのでしょう。
ただし、30~99人の企業では、住居に関する費用は低めです。社内のリソースの関係で「従業員を雇用するたびに社宅、寮を手配するより、手間がかからない住宅手当で対応したい」と考える企業が多いのかもしれません。
また、30~99人の企業で法定福利費が最も高い項目は、私的保険制度への拠出金(従業員を被保険者とする生命保険の保険料など。企業年金の掛金は含まない)の1,027円です。団体保険などは、法人で一括加入でき、前述したように付帯サービスでさまざまな福利厚生を従業員に提供できるので、利用しやすいのでしょう。
5.経営者と従業員、それぞれが重視する福利厚生は?
福利厚生はとにかく種類が多いので、
経営者が「これはいい」と思って導入しても、従業員のニーズに合わず利用されない
ことがあります。従業員の全ての要望に応えることは難しいですが、福利厚生に費やす時間や費用を無駄にしないためにも、その声に耳を傾けることは大切です。
そこで、本記事では次の経営者、従業員に対し、福利厚生に関する独自アンケートを実施しました(2022年7月6日~7月8日実施)。
1)福利厚生の導入状況
経営者に「現在、導入している福利厚生」について質問しました(複数回答)。
最も多く導入されているのは慶弔見舞金で、その後に人間ドック補助、予防接種補助、団体保険などが続いています。
2)福利厚生の利用状況
経営者に「従業員は、福利厚生を利用しているか」を、従業員に「自分自身が、福利厚生を利用しているか」を質問しました。
最も大きな差がついたのは「利用している」という項目です。経営者の29.7%は「従業員は福利厚生を利用している」と思っていますが、実際に福利厚生を利用している従業員は19.3%となっています。
3)福利厚生に対する満足度
では、福利厚生に対する満足度はどうなのでしょうか。経営者に「従業員は、自社の福利厚生に満足しているか」を、従業員に「自分自身が、自社の福利厚生に満足しているか」を質問しました。
経営者の48.1%は「従業員が自社の福利厚生にある程度満足している」と思っているのに対し、従業員の45.7%は「自社の福利厚生に少なからず不満がある」ようです。
また、経営者の29.4%は「よく分からない/答えたくない」と回答していますが、これは社内で福利厚生に対する従業員の本音を聞く機会(従業員満足度調査など)がないなどで、経営者自身が自社の制度の魅力を推し量りにくくなっているからではないかと考えられます。
では、次はそんな本音の見えない従業員が、どんな福利厚生に魅力を感じているのかを見ていきます。
4)支持を集めている福利厚生
経営者に「従業員に最も喜ばれると思う福利厚生は何か」を、従業員に「最もありがたいと思う福利厚生は何か」を質問しました。福利厚生は幅広いので、ここでは「3 法定外福利厚生とは」で紹介した7種類のタイプから選んでもらいました。
経営者、従業員ともに支持を集めた福利厚生は、「家計」をサポートするタイプ(住宅手当、社宅・寮、家族手当、慶弔見舞金、団体保険など)です。やはり生活に直結する金銭面の支援は、福利厚生として分かりやすく魅力的なようです。
一方、経営者と従業員とで最も意見が分かれた福利厚生は、「育児や介護」をサポートするタイプ(社内託児所、授乳室、育児代行サービス、法定を上回る休暇、休業など)です。経営者が思っている以上に従業員は仕事と育児や介護との両立支援に魅力を感じていますので、このタイプをカバーすることは重要かもしれません。
ここまでを読んで、「ウチの企業にはいい福利厚生がない……」と頭を抱えてしまった経営者の方もいるかもしれません。しかし、ご安心ください。どんな福利厚生も、従業員の生活や職場環境を支えていることに変わりはないわけですから、PRの仕方を工夫すれば、その魅力は従業員に伝わります。最後は、福利厚生を上手にPRするポイントを3つ紹介します。
6.福利厚生を上手にPRする
1)PRのポイント1:利用実績を明らかにする
福利厚生の利用実績を明らかにすると、制度を利用したことがない従業員や求職者も「どんな制度なんだろう」「自分も使ってみたい」と興味を持つかもしれません。
例えば、法律上、育児休業は原則1歳(最長2歳)までしか利用できませんが、独自の福利厚生として3歳まで利用できるようにしたとします。これを社内イントラネットや採用サイトでPRする場合、次のどちらの記載が魅力的でしょうか。
- 育児休業(3歳まで取得可)
- 育児休業(3歳まで取得可。2022年度の育児休業取得率は○%(男性○名、女性○名))
Aの記載でも法定を上回る育児休業を実施していることは伝わりますが、Bの記載にすれば、数値次第で「従業員に人気の制度であること」「一般的に育児休業の取得率が低いとされる男性も利用していること」などが伝わります。
2)PRのポイント2:経営者のメッセージを込める
福利厚生の内容が目新しいものでなくても、そこに経営者の熱い思いが込められていれば、従業員や求職者を引き付けるかもしれません。
例えば、「自己啓発」をサポートする一環で書籍購入補助を行うとします。これを社内イントラネットや採用サイトでPRする場合、次のどちらの記載が魅力的でしょうか。
- 書籍購入補助。従業員が自己啓発目的で購入する書籍の費用を会社が負担します
- 書籍購入補助。会社は従業員の成長を最大限支援します。業務に直接関係がなくても、皆さんのスキルアップにつながる書籍であれば費用を負担します
Aの記載でも福利厚生の内容は伝わりますが、Bの記載にすれば、「従業員の成長を全力でサポートしたい」という経営者のメッセージがよりストレートに伝わります。
3)PRのポイント3:画像や動画を活用してみる
福利厚生の内容を画像や動画でPRすると、文章で記載するだけの場合よりも、魅力や利用するイメージがぐんと伝わりやすくなります。
例えば、
- 社宅、寮であれば、外観や部屋の間取り
- 健康食品の社内販売であれば、食品のメニューや従業員が食事をしている様子
- 社内活動の費用補助であれば、懇親会や部活動の様子
などを、画像や動画にすることができます。また、社内イントラネットや採用サイトだけでなく、SNSやYouTubeなど、従業員や求職者にとって“取っ付きやすい”媒体を使ってPRすると、自社の福利厚生をより身近に感じてもらえるでしょう。
以上
(執筆 日本情報マート)
日本生命保険相互会社 法人営業企画G 法人営業開発室
日本2022般―255(2023.1.12)