福利厚生は給与以外で従業員が得る利益や利便性を指しますが、トレンドとして「従業員個人の便益」にとどまらず「企業を成長させる力」として福利厚生を捉える考え方が出てきています。
優秀な人材は、企業の成長戦略の一種として福利厚生を活用する企業に魅力を感じるようです。
福利厚生のトレンドを踏まえて制度を見直したい経営者はぜひご一読ください。
1.福利厚生は働きやすさにつながる制度がトレンド
福利厚生は働きやすい人事制度が重視される傾向にある、と解説する前に、前提となる福利厚生について簡単にご紹介します。
そもそも、福利厚生は2つにわかれます。
- 法律で定められた「法定福利厚生」に当る健康保険・介護保険、厚生年金保険、労働保険(労災保険・雇用保険)などの社会保険
- 企業が判断して提供する「法定外福利厚生」に当る住宅手当や慶弔見舞金などの金銭面のサポート、社販や社食など物品や施設の提供、フレックスタイム勤務制度や在宅勤務制度などの人事制度
本記事で「福利厚生」とだけ表記する場合、法定外福利厚生として企業の意思で提供する従業員の待遇を指します。
なお、福利厚生の基本や企業事例を知りたい方は関連記事をあわせてご覧ください
福利厚生とは?定義やメリットを経営者向けにわかりやすく解説企業が行う福利厚生の制度・施策で、従業員にとって必要性が高いと思うものの上位10項目は次のとおりです。
- 人間ドック受診の補助
- 慶弔休暇制度
- 家賃補助や住宅手当の支給
- 病気休暇制度(有給休暇以外)
- 病気休職制度
- リフレッシュ休暇制度
- 有給休暇の日数の上乗せ(GW、夏期特別休暇など)
- 治療と仕事の両立支援策
- 慶弔見舞金制度
- 法定を上回る育児休業・短時間制度
引用:令和2年版厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考える-(本文)全体版 図表1-3-35|厚生労働省
上記を見ると、今、従業員に求められている福利厚生は、健康を保ち、仕事と生活のバランスが保てるサポートであることがわかります。
「人間ドック受診の補助」や「病気休暇制度(有給休暇以外)」、「病気休職制度」、「治療と仕事の両立支援策」は、従業員が健康で長く働くことをサポートする福利厚生です。
「リフレッシュ特別休暇(長期勤続休暇)」や「有給休暇の日数の上乗せ(GW、夏期特別休暇など)」も、従業員のストレス解消によるメンタルケアに当るため、健康で長く働くためのサポートに含められます。
「慶弔休暇制度」や「慶弔見舞金制度」、「法定を上回る育児休業・短時間制度」は、従業員が大切な家族との暮らしをサポートする福利厚生です。
「家賃補助や住宅手当の支給」についても、従業員の配偶者の有無などでも条件や支給額が異なるため、大切な家族との暮らしをサポートする福利厚生の一つと言えます。
一方、経営者側には、福利厚生のトレンドとして、企業の独自性や面白さの追求が見られます。
また、面白い福利厚生は、企業認知を広げます。従業員を働きやすくサポートする社風や企業風土はもちろん、福利厚生の費用で社外の広報も兼ねる企画・発想力の人材がいることのアピールになります。
面白い福利厚生の企業事例については、関連記事をあわせてご覧ください。
面白い福利厚生とは?企業の個性を引出す人事制度を整えよう2.従業員に福利厚生として経営資源の一部を投資する
福利厚生のトレンドは、人事制度を中心にした「働きやすさ」の追求にあります。
なお、リモートワークなど多様な働き方が浸透したことで、オフィスの環境整備や改善施策は必ずしも従業員が望む福利厚生とは限らず、トレンドから外れることも予測されます。
例えば、支給されるのが当たり前だった通勤交通費の支給を止め、代わりに通信費やデスク環境整備費用などをリモートワーク手当として支給する企業も出てきています。
働く場所や勤務日時をフレキシブルに働ける企業と、そうでない企業を比べ、同じ給与体系であれば、優秀な人材はフレキシブルな働き方ができる方を選ぶと推測できるため、福利厚生をそのままにするなら給与体系で差をつけなければ、旧来の待遇のままで人材確保できなくなります。
そのため、福利厚生の見直しをするなら、まずは求める人材像を明確にし、今後、従業員に対してどういう働き方を奨励していくか、戦略を立て、給与体系などもあわせて検討する必要があります。
なお、福利厚生にかかった費用であっても、従業員に均等に、社会通念上、相応である費用だとみなされなければ、福利厚生費として経費にできません。
戦略的に独自の福利厚生制度を設計して活用しようとしたとき、条件や内容によっては福利厚生費として認められないケースが想定され、「従業員に福利厚生として経営資源の一部を投資する」という考え方も必要になっています。
企業の判断で提供する福利厚生は、所属する現在の従業員だけでなく、未来の従業員にも向けた企業メッセージです。
現在の従業員ニーズにフォーカスしすぎるのではなく、求めている人材像が好む福利厚生制度を目指しましょう。
3.福利厚生のトレンドの変遷
福利厚生のトレンドの変遷は、消費特性と似た傾向が見られます。具体的には、高度経済成長期からバブルの崩壊までの消費文化は「モノ」が重視されていたのに対し、現在では「イミ」や「ヒト」の消費文化がトレンドになっています。
つまり、福利厚生も消費文化と同様に「モノ」から「イミ」「ヒト」へとトレンドがシフトしてきているのです。
福利厚生は従業員の待遇であり、消費文化とは直接関係ないように思えますが、企業から提供される金銭や物品、働きやすくする条件緩和や許可であるため、消費者としてのスタンスの影響を受けます。
かつての消費文化は、物理的な物品を重視し、所有する「モノ」の消費傾向が優勢でした。
しかし、現在では、今このときの体験を共有する社会的かつ文化的な意義として、環境保全や地域貢献、歴史・文化伝承などに貢献することを重視する「イミ」の消費傾向が出てきています。
また、「イミ」の消費傾向の中で、応援したい対象を「推す」ことを重視する「ヒト」の消費傾向も見られます。
参照:現代消費潮流概論-消費文化論からみるモノ・記号・コト・トキ・ヒト消費-|ニッセイ基礎研究所
福利厚生においても、特別手当や従業員に配る記念品や褒賞など、金銭や物品を提供する福利厚生が主流だった「モノ」重視から、スポーツやレジャー、ジム・フィットネスクラブの費用補助や成果に対する褒賞制度などの「イミ」や家族の概念を広げてペットや、好きな芸能人やキャラクターの特別な日に休暇を取れる福利厚生制度には「ヒト」の傾向が見られます。
「ヒト」消費の傾向で、特定の対象を押すのは従業員に限った話ではなく、企業が特定の誰かを推す「ヒト」の特徴を持つ福利厚生制度を提供する例も見られます。わかりやすい例は、キャリア継続を前提にした復職条件の緩和です。
配偶者の海外赴任の同行や、自身の留学・就学のキャリアアップが理由で数年単位の休職と復職を認める福利厚生制度、一定の条件を満たせば、転職して退職しても前の役職・ポジションで復職できる福利厚生制度には、企業が従業員個人を推す「ヒト」や「イミ」の傾向が見られます。
本来は離職した従業員を企業がサポートする役目はありませんが、優秀な人材に成長してもらい、また働いてもらいたいという従業員個人を「推す」姿勢が読み取れます。
また、従業員自身に今このときしかできない体験を通じて成長してもらうことは、企業の枠組みの外にある社会活動に貢献する「イミ」にも当ります。
その他、フレックスタイム勤務制度や時差出勤、副業の許可など、従業員個人の生活やキャリアを尊重する制度全般に、同様の「ヒト」の特徴が見られます。
消費特性ごとの福利厚生の具体例
消費特性 |
福利厚生の企業事例 |
モノ(所有) |
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イミ(貢献) |
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ヒト(応援) |
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4.まとめ
福利厚生として条件緩和や許可などを中心にした「働きやすさ」につながる制度がトレンドにあります。
また、福利厚生のトレンドの変遷には消費文化と同様の流れが見られます。物品から体験を重視する傾向が見られるだけでなく、従業員個人の生活やキャリアを尊重し、応援するスタンスも見られるようになっています。
今後、企業が成長していくには、従業員に福利厚生という形で経営資源の一部を投資する心算で、戦略的に福利厚生を用いる姿勢が必要でしょう。
(執筆 株式会社SoLabo)
生22-3366,法人開拓戦略室