生活に欠かせない「衣・食・住」の要素の中でも、定期的な支出が少なくない「住宅」に関する費用について、会社が福利厚生としてサポートすると社員のエンゲージメントが高まることがあります。
本記事では経営者の方向けに、住宅手当の基本や支給条件、相場金額について解説するほか、住宅手当に関するよくある質問についてご紹介します。
1.住宅手当の基本
住宅手当とは、家賃や住宅ローンなど世帯主の社員が住宅のために支払っている費用を一部補助するために、会社が給与と一緒に支給するもの、またはその福利厚生制度のことを指します。
一般的に「手当」とは、基本給を補充して社員の個別の事情による待遇差を是正するもので、賞与等の算定基礎にならないものを指し、住宅手当もその定義と同じく、社員間の住宅事情による待遇差を是正するために支給します。
なお、企業規模を合算した割合として「47.2%(令和2年調査計)」の企業が「住宅手当など」を支給しています。前回の調査では「45.8%(平成27年調査計)」であるため、微増しています。
また、企業規模別に見ると、規模が小さい企業よりも規模の大きな企業の方が支給する傾向が見られます。
企業規模別の住宅手当の支給企業割合
企業規模・年 |
住宅手当など |
令和2年(2020年)調査計 |
47.2(%) |
1,000人以上 |
61.7(%) |
300~999人 |
60.9(%) |
100~299人 |
54.1(%) |
30~99人 |
43.0(%) |
平成27年(2015年)調査計 |
45.8(%) |
*次の参照先にある「第18表 諸手当の種類別支給企業割合(令和元年11月分)」から「住宅手当など」の列を抜粋し、表として再構成
参照:令和2年就労条件総合調査 結果の概況|厚生労働省
また、現金支給の住宅手当は、どのような支給条件であっても課税対象であり、社員にとっては所得税や住民税の対象となるだけでなく、会社にとっては社会保険料や労働保険料の費用負担分も増えます。
社員の住宅にかかる費用の補助をしつつ、手取りを増やしたいのであれば、住宅手当として現金支給するのではなく、住宅を借り上げて家賃を折半する「家賃補助」を行う等、工夫する必要があります。
家賃補助の福利厚生については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生の家賃補助の費用相場や支給する対象と条件を解説
2.住宅手当の支給条件
住宅手当に関する法律上の決まりがなく、会社の判断で条件を設定できるため、支給条件も様々です。
ただし、住宅手当の支給条件として、次の要素が考慮されることが一般的です。
住宅手当の支給条件で考慮される要素
要素 |
備考 |
社員と住宅の関係性 |
世帯主(責任をもって住宅費を支払う立場)であるか否か。社員同士が結婚するケースなど、住宅手当の二重取りを防げる。 |
住宅の属性 |
社員の住宅が「持ち家」か「賃貸物件」か。 |
住宅の立地 |
勤務地からの距離が近いか、遠いか。勤務地から近い場所に社員が住むように優遇すると、災害時などの万一の際の会社の事業継続計画(BCP)につながる。 |
社員の属性 |
社員の年齢、同居する家族の人数や構成などが考慮されるケースもある。 |
住宅手当は、住宅に対して費用面での責任を持つ世帯主でなければ支給されないことが一般的ですが、それ以外の要素が支給条件に影響するか否かは会社によって異なります。
例えば、「一人暮らしの20代若手の単身者の社員で、会社に距離が近い賃貸物件に住むケース」に限定して住宅手当を支給する会社もあれば、住宅手当を支給するのに「社員が世帯主であれば持ち家や賃貸、勤務地からの距離などの条件を問わず」とする会社もあります。
なお、住宅手当の社内申請としては、物件の地区での在住を示す書類「住民票」と、社員と住宅の契約関係を示す書類である「ローン支払い明細書」や「賃貸借契約書」などのコピーを提出させることが一般的です。
そのため、セカンドハウスなどの複数の住宅を所持して二拠点で生活していても、社員が主に住んでいない住宅(住民票がない方の住宅)に対しては、一般的には住宅手当の支給対象にはならないと考えられます。
その場合、社員が住宅を購入した後に一時的な転勤や単身赴任することになった場合などで不利益が生じるため、他に転地・別居をサポートする福利厚生制度として「地域手当」や「勤務地手当」、「別居手当」などとあわせて運用するケースも見られます。
他にも、住宅手当と支給の目的と考慮する要素が似ている関係で、通勤手当と支給条件をあわせて運用するケースは珍しくありません。
通勤手当については次のコンテンツで詳しく解説しています。
通勤手当とは?定義や類語との違い、課税ルールと計算方法を解説
非正規の社員の住宅手当の扱い
正規の社員と同等に働く非正規の社員がいるにも関わらず、社員の種類が異なることによって福利厚生の待遇差がある場合、是正する必要があります。
家族手当については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生の種類には何がある?法律や会社での種別の一覧を解説
ただし、住宅手当は合理的な待遇差と認められる説明ができれば、正規社員であることを支給要件に含めることができます。
例えば「正社員は転勤等があるため、住宅にかかる費用負担が大きい」一方で「契約社員は転勤予定がないため、費用負担が小さい」という説明であれば合理的な待遇差と認められる可能性があります。
カッコ内の文章を引用:働き方改革応援レシピ No.85「非正規雇用労働者にも扶養手当を」(PDF)|愛知働き方改革推進支援センター 令和3年度 厚生労働省・愛知労働局委託事業
3.住宅手当の相場
住宅手当の相場は「17,800円(2020年調査計)」です。
前回の調査では「17,000円(2015年調査計)」であるため、微増の傾向がみられます。
他の手当と同様「住宅手当など」も、企業規模が大きいほど相場があがる傾向が見られます。
企業規模別の住宅手当の平均支給額(令和元年11月分として支給)
企業規模・年 |
住宅手当など |
令和2年(2020年)調査計 |
17,800(円) |
1,000人以上 |
21,300(円) |
300~999人 |
17,000(円) |
100~299人 |
16,400(円) |
30~99人 |
14,200(円) |
平成27年(2015年)調査計 |
17,000(円) |
*次の参照先にある「第19表 諸手当の種類別支給された労働者1人平均支給額(令和元年11月分)」から「住宅手当など」の列を抜粋し、表として再構成
参照:令和2年就労条件総合調査 結果の概況|厚生労働省
4.住宅手当に関するよくある質問(FAQ)
住宅手当に関するよくある質問として、次の内容を解説します。
住宅手当は年収に入る?
住宅手当なしのメリットはある?
住宅手当を始めるにあたり、就業規則に何を書くべきか?
通勤手当と住居手当を合算して支給できる?
住宅手当は年収に入る?
一般的に言われる「年収」は、会社が社員に対して支払ったままの年間の支給金額を指し、所得税や住民税などの税金、健康保険や厚生年金などの社会保険料が差引かれる前の金額で計算します。
そのため、住宅手当も支給された現金として、年収に入ります。
住宅手当なしのメリットはある?
住宅手当として支給された現金は課税対象であるため、住宅手当なしの場合にはその分の税金がかからない点はメリットと言えます。
制度として運用していた住宅手当をなくすと、会社が支払う社会保険料が減る点も利点と言えますが、社会保険料が減れば社員が将来もらえる年金額にも影響するため、注意が必要です。
住宅手当を始めるにあたり、就業規則に何を書くべきか?
住宅手当を始める際は、就業規則などで支給条件の制限を明記する必要があります。
住宅手当の制限の例としては、「若手の正規の社員に限る」、「会社から近い距離に住む社員は通勤手当が安くなる分、住宅手当の金額上乗せする」などです。
ただし、リモートワークを主流にできる事業で、在宅勤務の社員がほとんどの場合、社員の通勤が少ないため、会社からの距離をさほど考慮しないと考えられます。
福利厚生におけるリモートワーク制度については次のコンテンツで詳しく解説しています。
リモートワークを福利厚生に導入する方法と在宅勤務支援策を解説
なお、家族の人数や構成に関係して支給金額を上乗せしたい場合、別途、社員に家族がいる場合に支給される「家族手当」の導入を検討した方がよいでしょう。
家族手当については次のコンテンツで詳しく解説しています。
会社の家族手当とは?類語との違いと相場と支給条件について解説
通勤手当と住居手当を合算して支給できる?
通勤手当と住居手当を合算するケースもありますが、その際は区分表記が必須です。
参照:通勤手当と住宅手当を合算して支給する場合の取扱い|国税庁
給与明細書等において、通勤費の実費部分の額が通常の給与に加算して支給される通勤手当として区分識別できるのであれば、所得税法第9条第1項第5号《非課税所得》に規定する「非課税の通勤手当」として認められます。
支給にあたっては、通勤費の実費部分について通勤手当として加算した旨を明確に表示する必要があります。したがって、例えば、「住宅通勤手当45,000円(うち通勤手当28,000円)」などといった表記が必要となります。
参照:通勤手当、住居手当 - 消費税:従業員に対する通勤手当、住居手当等は課税仕入れに該当するのでしょうか。|国税庁
(執筆 株式会社SoLabo)
生23-5568,法人開拓戦略室