派遣社員の福利厚生は、派遣元の会社と派遣先の会社の間で、派遣社員がどのような派遣契約をするかによって適用範囲が異なります。
契約によっては、実際に派遣社員が仕事を行う職場で、派遣先の社員に提供されるものと同等の福利厚生が使えることもあれば、使えないこともあります。
本記事では、派遣社員が使える福利厚生を決める条件についてご紹介します。派遣社員の採用や派遣会社の利用を検討している経営者の方は参考にしてください。
1.派遣社員の使える福利厚生の条件は派遣契約で決められる
派遣社員が福利厚生を使用できる条件は、派遣元との派遣契約によって決まります。
派遣契約をする際の、派遣社員の待遇を決める「待遇決定方式」の選択によって、派遣社員が所属する派遣元の福利厚生を使うことになるか、実際に働く職場である派遣先の福利厚生を使うことになるかが決まります。
なお、当記事で解説する派遣社員は、いわゆる「登録型派遣」として派遣元に登録し、派遣先で有期雇用される労働者のことを示します。
参照:労働者派遣事業を適正に実施するために-許可・更新等手続マニュアル-(PDF)p.5|厚生労働省・都道府県労働局(公共職業安定所)
また、「派遣元」とは派遣社員が雇用契約を結ぶ会社、いわゆる派遣会社のことで、「派遣先」は派遣社員に業務遂行に必要な指示をする会社のことです。
派遣社員の待遇決定方式は2つに分けられます。
【派遣先均等・均衡方式と労使協定方式】
方式 |
概要 |
労使協定方式 |
派遣元において、労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数代表者と一定の要件を満たす労使協定を締結し、当該協定に基づいて派遣労働者の待遇を決定する方式。 |
派遣先均等・均衡方式 |
派遣先の通常の労働者(*)との均等・均衡待遇を図る方式。 基本給、賞与、手当、福利厚生、教育訓練、安全管理等、全ての待遇のそれぞれについて、派遣先の通常の労働者との間に「不合理な待遇差」がないように待遇を決定する。 |
引用:不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル p.6 「B.「派遣先均等・均衡方式」と「労使協定方式」」|厚生労働省
(*)補足:「通常の労働者」とは、判断基準となる正規社員やフルタイム勤務者のことを指す
派遣元の大半は、派遣社員の待遇決定方式として「労使協定方式」を選択します。「派遣先均等・均衡方式」が選択されづらい理由としては、派遣先ごとに待遇の水準を決定するため、契約内容の作成に工数が掛かることが挙げられます。
なお、働き方改革のポイントの一つである、同一労働同一賃金の観点から同じ労働をする人の待遇に不合理な差がないか、福利厚生も確認の対象となるため、待遇決定方式に従い、派遣社員と比較される社員の間の待遇差を確認する必要があります。
福利厚生と働き方改革については次のコンテンツで解説しています。
働き方改革を推進する福利厚生とは?取組事例やポイントを解説
労使協定方式の場合
派遣契約で「労使協定方式」に決められた場合は、派遣元と一定の要件を満たす労使協定を締結し、協定内容に基づいて派遣社員の待遇が決定されます。
「労使協定方式」では、福利厚生などの「賃金以外の待遇」は、派遣元の正規社員と比較して決定されるため、派遣社員が利用できる福利厚生は、原則、派遣元の福利厚生制度に準じます。
「労使協定方式」を採用する場合は、協定内容によって派遣社員の待遇は異なりますが、派遣先、つまり、実際に勤める職場の福利厚生は使用できない傾向があります。
ただし、「労使協定方式」であっても、合理的な待遇差解消の義務が課される福利厚生施設、例えば給食施設や休憩室、更衣室については派遣社員も使用できます。
参照:不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル p.22 2-1「派遣先均等・均衡方式」と「労使協定方式」の概要|厚生労働省
派遣先均等・均衡方式の場合
「派遣先均等・均衡方式」の場合、派遣社員の待遇は、派遣先の会社で雇用されている正規社員と比較が行われるため、派遣社員の労働条件によっては、派遣先の福利厚生を利用できる場合があります。
派遣社員が派遣先の福利厚生を利用できるかは、「均等」と「均衡」どちらの考えに基づくかによって決まります。
【「均等待遇」と「均衡待遇」の比較】
均等待遇 |
派遣労働者と派遣先の通常の労働者との間で、①職務の内容、②職務の内容・配置の変更の範囲が同じ場合は、派遣労働者であることを理由とした差別的取扱いを禁止すること ※均等待遇では、待遇について同じ取扱いをする必要があります。同じ取扱いのもとで、能力、経験等の違いにより差がつくのは構いません。 |
均衡待遇 |
派遣労働者と派遣先の通常の労働者との間で、①職務の内容、②職務の内容・配置の変更の範囲、③その他の事情(※)を考慮して不合理な待遇差を禁止すること ※「職務の内容」、「職務の内容・配置の変更の範囲」以外の事情で、個々の状況に合わせて、その都度検討します。成果、能力、経験、合理的な労使の慣行、労使交渉の経緯は、「その他の事情」として想定されています。 |
引用:不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル p.7 図表1-6|厚生労働省
例えば、派遣社員が派遣先で、比較対象になる社員と同じ労働時間や業務内容で働く場合、「均等待遇」に基づき、派遣先の社員と同じ福利厚生が使用できます。
一方で、短日数の勤務や勤務時間が短いなどの正当な理由がある場合は、「均衡待遇」に基づき、福利厚生の利用に待遇差が生まれることがあります。
福利厚生施設は待遇決定方式に関わらず利用を認める
待遇決定方式が「労使協定方式」「派遣先均等・均衡方式」いずれの場合でも、派遣社員へ派遣先の福利厚生施設を認めることが義務づけられています。
参照:労働者派遣法 第四十条第三項|e-Gov 法令検索
例えば、「労使協定方式」で派遣契約を締結した派遣社員の場合、福利厚生施設の利用に関しては、派遣先の従業員と比較して不合理な待遇になっていないかを確認する必要があります。
派遣先が派遣社員にも利用を認める義務がある福利厚生施設は、「給食施設」「休憩室」「更衣室」です。
利用を認める義務のある施設以外の「派遣先が自ら用意する施設」については、派遣社員がそれらの福利厚生施設を利用できるよう配慮する義務があります。
【待遇の合理性判断に基づく福利厚生施設の分類】
利用を認める義務のある施設 |
給食施設、休憩室、更衣室 |
配慮する義務のある施設 |
物品販売所、病院、診療所、浴場、理髪室、保育所、図書館、講堂、娯楽室、運動場、体育館、保養施設など |
参照先を元に表として再構成:不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル p.96 派遣先が実施しなければならない対応について|厚生労働省
なお、社員の種類と福利厚生の待遇差については、次のコンテンツで詳しく解説しています。
正社員の福利厚生と待遇差がある従業員がいるとき必要な対応とは?
2.法定の福利厚生は派遣元が負担する
法律で定められる福利厚生に関わる費用は、雇用主である派遣元の会社が負担します。
法定の福利厚生には、健康保険や労働保険、年次休暇などがあります。
法定福利厚生については、次のコンテンツで詳しく解説しています。
法定福利厚生とは?種類や費用負担を解説
なお、年次有給休暇を与える義務は、派遣元にあります。ただし、創立記念日などで派遣先が法定外休暇を設けている場合は、派遣契約に基づいて待遇が決定されます。
なお、急遽派遣先の都合で派遣契約の解除をした場合も、派遣先は派遣元が負担する費用を賠償しなければなりません。
例えば、経営状況の悪化や事業規模の縮小などを理由として、契約期間中に派遣契約の解除をする場合は、労働者派遣契約の内容に応じて、就業機会の確保または賃金の賠償を行う必要があります。
参照:派遣先が講ずべき措置に関する指針 (4) 損害賠償等に係る適切な措置 p.311|厚生労働省
法定の福利厚生に関わる費用は、派遣元が負担しますが、法定の福利厚生に関する費用は、派遣先が派遣元へ支払う派遣料金の内、派遣労働者の賃金以外の費用(マージン)に含まれるのが一般的です。
【派遣先が支払う「派遣料金」に含まれる費用の例】
- 派遣会社が負担する社会保険料
- 派遣会社が負担する雇用保険料・労災保険料
- 派遣会社での教育訓練費・福利厚生費
- 派遣会社の社員の人件費
- 営業利益
一部引用:派遣会社のマージン率について「マージン率とは」| 厚生労働省
また、派遣先が支払う派遣料金から派遣労働者の賃金を引いて、派遣元が受け取る費用の割合を「マージン率」といいます。
なお、労働者派遣法改正から、労働者が派遣会社のマージン率を確認して派遣会社を選べるよう、マージン率の情報公開が派遣元の会社に義務付けられています。
参照:派遣会社のマージン率について|厚生労働省
(執筆 株式会社SoLabo)
生22-6590,法人開拓戦略室