福利厚生は従業員への待遇であり、その制度や施策は従業員が働きやすくするためにあります。
福利厚生のメリットは種類をまとめられて語られがちですが、従業員への提供が法的義務である「法定福利厚生」と、企業の判断で提供する「法定外福利厚生」のメリットはそれぞれ異なるものです。
2種類の福利厚生のメリットとデメリットの違い、また、更に福利厚生制度それぞれの具体的なメリットとデメリットを一覧でしっかり押さえたい経営者の方は、ぜひ最後までご覧ください。
1.法定福利厚生だけを提供するメリットとデメリット
国が定めた福利厚生(法定福利厚生)だけを提供するメリットは、企業として法定外福利厚生を特に提供しなくとも、従業員に対して最低限の生活保障が行える点です。
例えば、従業員を慰労する有給休暇は、労働時間に対して付与日数が定められているため、年間の有給休暇をきちんと取得させるだけで、法的に必要最低限の休みを提供できます。
また、業務上の事故で疾病や怪我によって働けなくなった場合は労災(労働災害)となりますが、法定福利厚生として社会保険費を支払っていれば、従業員への損害補填と生活保障が行えます。
*最低限必要な福利厚生(法定福利厚生)については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生なしの会社はない?最低限必要な福利厚生を解説
他にも、法定福利厚生は原則、法定福利費として経費に計上できるため、事業利益を福利厚生に費やした結果、法人税の節約になるメリットがあります。
ただし、社会保険は従業員の人数に比例して増えるため、その分、企業負担が大きくなり、結果的に企業側が雇用に慎重になる点は、法定福利厚生のデメリットと言えます。
他にも、法定福利厚生だけを提供する企業には人材が集まりにくいとされる点もデメリットです。
何故なら、従業員は働きやすさを福利厚生で測る傾向があるためです。
同じ業務内容で同じ給与であれば、法定福利厚生だけ提供する企業ではなく、法定外福利厚生も提供する企業が選ばれます。
ただし、パート・アルバイト、契約社員などの非正規の従業員に対して、正社員と比べたときに福利厚生で不合理な待遇差があってはならないため、法定福利厚生のみのシンプルな制度設計であれば運用・管理がしやすい点はメリットと言えます。
*社員の種類による待遇差については次のコンテンツで詳しく解説しています。
正社員の福利厚生と待遇差がある従業員がいるときに必要な対応とは?
2.法定外福利厚生を充実させるメリットとデメリット
国の定めた範囲を超え、企業独自に福利厚生を提供すると「働きやすさ」を作ることになり、社風の形成が行えるメリットがあります。
他にも、同じ業務内容で同じ給与であれば、法定外福利厚生が手厚い企業の方が採用時にアピールポイントになり、従業員が長期で働くモチベーションにもつながります。
個性的な福利厚生を打出し、採用時の広報や世間の認知度アップにつなげる施策は、法定外福利厚生が充実している企業でなければできないことです。
*ユニークな福利厚生については次のコンテンツで詳しく解説しています。
面白い福利厚生とは?企業の個性を引出す人事制度を整えよう
ただし、当然ながら法定外福利厚生を充実させるために事業利益を割くことになり、福利厚生費に計上して節税につなげるために、税制の理解や運用に工夫が必要になる点はデメリットと言えます。
まず、法定外福利厚生を手厚くする際に注意したいのは、従業員の福利厚生のために使った場合でも、福利厚生費として経費にできないケースがある点です。
福利厚生の原則として、従業員に対して「均等待遇」であること、提供される待遇が「社会通念上相当」でなければならず、原則から外れた福利厚生は税法上、福利厚生としてみとめられません。
*福利厚生の原則など、基礎知識については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生とは?定義やメリットを経営者向けにわかりやすく解説
例えば、福利厚生の家賃補助において「社員寮や社宅の借上げを行った上で社員と住宅費を折半するケース」は福利厚生費に計上できますが、「住宅手当として一律で支払うケース」は計上できません。
*家賃補助の福利厚生については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生の家賃補助の費用相場や支給する対象と条件を解説
他にも、法定外福利厚生を増やすほど、運用・管理が大変になるのはデメリットです。
特に社員の属性や種類が多い場合、パート・アルバイト、契約社員などの非正規の従業員への不合理な待遇差にならないよう配慮する必要があります。
待遇差の是正は福利厚生の「均等待遇」の原則を守るために必要な検討ですが、法定外福利厚生の導入や見直しの工程を増やし、企業の負担がかかります。
なお、福利厚生の自社運用が難しい場合など、法定外福利厚生をアウトソーシングして充実させる方法もあります。
福利厚生代行サービスは多様なジャンルの福利厚生サービスを提供できるので、従業員満足度を底上げできるメリットがある一方、企業の個性や社風につなげにくい他、従業員が利用しなくても固定で使用料がかかるデメリットがあります。
*福利厚生の代行(アウトソーシング)については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生のアウトソーシングとは?市場規模と種類とメリットを解説
3.主な福利厚生制度のメリットとデメリット
主な福利厚生制度における特徴的なメリットとデメリットは次のとおりです。
主な福利厚生制度のメリットとデメリットの一覧
福利厚生の名称 |
メリット |
デメリット |
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法定福利厚生として提供するだけで、従業員に最低限の生活保証ができる。 企業が負担する分は法定福利費として経費に計上できる。 法定の休業中は保険や拠出金などで従業員の生活保障がある、法定の有給休暇には助成金制度がある等、法定福利厚生を実施するときの企業負担は大きくない。 |
従業員の人数に比例し、社会保険料や拠出金などの費用がかかり、手続きする必要がある。 法定休暇や休業の中でも、産休と育休は企業内の取得実績を公表する義務があり、取得状況が人材採用に影響する可能性がある。 |
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法定福利厚生として提供するだけで、業務外に従業員が働く場合の最低限必要な待遇を提供できる。 |
手当は原則、給与所得に当り、法定福利費としては認められない。 |
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法定外福利厚生として、従業員の住宅や勤務地など、それぞれの事情に対して生まれる待遇の差を是正できる。 |
手当は原則、給与所得に当り、福利厚生費としては認められない。 例えば住宅費用を福利厚生費にするには、企業が住宅を借上げて従業員と費用を負担し合う必要があるなど、手間がかかる。 |
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従業員の慰労につながる法定外福利厚生として企業の判断で特別休暇を提供することで、企業の個性や社風の醸成につながる。 |
就業規則で特別休暇を有給休暇と定義した場合、従業員が特別休暇を取得した日にも賃金が発生する。 法定外福利厚生の休業の原資は、事業利益から確保、あるいは企業向けの団体保険に加入して確保する必要がある。 |
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法定外福利厚生として、社会通念上相当とされる条件と金額なら、福利厚生費として計上できる。 |
利用される度に費用がかかる。 税制上の福利厚生として認められない条件に該当しないよう、導入時の検討には慎重さが求められる。 |
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従業員に働き方や働く場所の選択肢を与える法定外福利厚生として企業の判断で提供することで、災害などがあっても事業継続しやすい企業風土を醸成できる。 「働き方改革」などの政府指針にあった経営とみられやすく、人材採用時や補助金申請時に有利になる要素と推定される。 |
インターネット関連の事業を展開するなど、従業員にパソコンを一人一台支給する前提の企業は導入しやすいが、そうでない企業は機材調達や人員教育などの導入費用がかかる。 事業ジャンルによって導入しやすさが異なり、働き方の選択肢を提供できないケースがある。 導入前以上に情報漏えいのリスクを抱えるため、情報セキュリティ対策や従業員への情報リテラシー教育の重要性が高い。 |
*上の表でご紹介した福利厚生の種類については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生の種類には何がある?法律や会社での種別の一覧を解説
*法定福利厚生や法定外福利厚生を含めた「健康」に関する福利厚生については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生で健康支援が重要視される理由や制度と施策例を解説
*慶弔見舞金制度については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生の見舞金とは?慶弔災害の種類と相場と制度導入する方法
*ランチサポート制度については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生でランチをサポートするなら?食事支給と費用補助を解説
*ブレジャー制度やワーケーション制度については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生のレジャーの位置付けはブレジャー制度で変わる?
主な福利厚生制度のメリットとデメリットについて総括すると、どんな福利厚生制度にも提供する上でのメリットとデメリットはある、ということが言えます。
福利厚生制度のメリットとデメリットを把握した上で導入を検討し、社風にあわせた制度内容を吟味する必要があります。
また、制度を導入したら終わりではなく、導入後も定期的に見直すことで、福利厚生のメリットを最大化できるでしょう。
福利厚生制度の見直しについては次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生の見直しはどう行う?時期とやり方について解説
(監修 株式会社SoLabo 田原 広一)
生22-5318,法人開拓戦略室