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厚生年金の適用拡大と次期年金改革の論点

法人保険の活用方法

2024-09-06

2024年10月に、厚生年金の対象となるパート労働者の範囲が拡大されます。本稿では、この改正を確認した上で、今後の拡大や他の制度改正に関する検討の動向をご紹介します。

目次

2024年10月に、厚生年金の対象となるパート労働者の範囲が拡大されます。本稿では、この改正を確認した上で、今後の拡大や他の制度改正に関する検討の動向をご紹介します。

1.2024年10月から対象となるのは、どんな人?:社員50人超の企業で働くパート労働者

日本の公的年金制度には、国民年金と厚生年金があります。国民年金は、日本に住む20~59歳の人が加入する制度です【図表1】。また、会社員などとして働くと、国民年金に加えて厚生年金にも加入します。厚生年金の対象になるかは、個人の就労状況(労働時間等)と職場(事業所)の形態によって決まります。

フルタイム勤務などの労働者の場合、個人の就労状況については、週の所定労働時間や月の所定労働日数が勤め先の通常の労働者の4分の3以上だと、厚生年金の対象となります。職場の形態については、職場が法人の事業所の場合は業種や規模に関係なく厚生年金の対象となり、職場が個人事業所の場合は法定された業種かつ通常の厚生年金加入者に該当する従業員が常時5人以上の場合に厚生年金の対象となります。

パート労働者(短時間労働者)の場合は、パート労働者に特有の就労状況や企業規模の要件を満たした場合に、厚生年金の強制適用の対象となります【図表2】。いわゆる「年収の壁」は、この中の所定内賃金の要件を指しています。雇用契約上の所定内賃金が対象になっており、残業代が含まれない点には注意が必要です。

2020年に成立した改正法で、2022年10月から、パート労働者に特有の要件である企業規模が、「社員500人超」から「社員100人超」へ拡大されました(企業規模の対象となる社員は、厳密には、前述した通常の厚生年金の加入者を指し、拡大の対象となるパート労働者を含みません)。また、パート労働者に特有の勤務期間の要件が廃止され、通常の厚生年金加入者と同じ「継続して2か月を超えて使用される見込み」となりました。

加えて、厚生年金の対象となる個人事業所の業種に、士業が追加されました。対象業種が拡大されるのは1953年以来で、約70年ぶりの改正となりました。

また、2020年の改正法には、2024年10月からパート労働者に関する企業規模の要件が「社員50人超」へ拡大されることも、盛り込まれていました。これが今回、予定どおりに施行されます。2024年10月から厚生年金に加入するパート労働者は、約20万人と見込まれています。

日本の公的年金制度
パート労働者が厚生年金に加入する際の要件

2.これからも拡大は続くの?:パート労働者の企業規模要件と個人事業所の業種要件の廃止が次の課題

このように厚生年金に加入する労働者の範囲は段階的に拡大しており、今後の拡大に向けた議論も行われています。

前述した2020年の改正法の附則には、厚生年金の適用範囲について検討を加えることが盛り込まれました。また、同法が国会で審議された際の附帯決議には、個人事業所の適用業種の見直しも含めた検討を促進することや、企業規模の要件については早期の撤廃に向けて速やかに検討を開始すること、労働時間要件と賃金要件についても検討に着手することが、盛り込まれました。

その後、官邸が2021年11月から開催した全世代型社会保障構築会議で議論され、2024年2月からは厚生労働省が労使の代表を含む有識者懇談会を開催しました。有識者懇談会は、各種業界団体などからのヒアリングを実施し、その後の議論を経て、2024年7月に報告書を公表しました【図表3】。

報告書では、パート労働者に関する企業規模要件の撤廃と、個人事業所に関する非適用業種の解消が、優先的な検討事項とされました。あわせて、必要な配慮措置や支援策の検討も必要とされました。一方で、パート労働者に関する労働時間要件と賃金要件については、雇用保険の適用拡大や最低賃金の引上げの状況を踏まえて検討を行う必要がある、とまとめられました。

この報告書を受けて、社会保障審議会の年金部会で次期制度改正に向けた検討が進められる予定です。

有識者懇談会の報告書の概要

3.それ以外の制度改正は?:在職老齢年金や標準報酬月額の上限の見直しなどを検討中

社会保障審議会の年金部会は、厚生年金の適用拡大以外にも、次期制度改正に向けた検討を行っています【図表4】。この中で、厚生年金の適用拡大以外で企業との関係が強い項目は、在職老齢年金と標準報酬月額の上限です。

在職老齢年金は、厚生年金が適用される形で働きながら厚生年金を受給する場合、月あたりの給与や賞与(標準報酬)と厚生年金月額の合計が基準額を上回ると、上回った分の半額が厚生年金の月額から減額される仕組みです。基準額は、現役男性の平均的な標準報酬を目安に毎年度見直されており、2024年度は50万円です。なお、減額の対象となるのは厚生年金(いわゆる2階部分)のみで、基礎年金(いわゆる1階部分)は減額されません。

在職老齢年金は、高齢者の就労を阻害しない観点と将来世代の負担を重くしない観点の双方に配慮しながら、改正が繰り返されてきました。近年は、高齢者の就労を阻害する懸念や、考慮される収入が標準報酬(給与や賞与)に限定されて事業所得などが含まれない点などが問題視され、厚生労働省は約10年前から減額の廃止を提案しています。しかし、減額が廃止された場合に恩恵を受けるのは基準額(2024年度は月50万円)を超える収入がある人だけに限られるため、これまでは成立に至りませんでした。

標準報酬月額の上限は、引上げの方向で検討が進められています。標準報酬月額は月々の給与をもとに決められるもので、厚生年金の保険料や年金額の計算に使われるものです。標準報酬が高いほど厚生年金の金額が高くなるため、その上限は健康保険の標準報酬よりも低く抑えられています。2024年度の上限は、厚生年金では65万円、健康保険では139万円です。しかし、厚生年金の標準報酬月額の上限に該当する人は、男性では約1割に達しています。そこで有識者からは、所得再分配を強化するために上限を引上げるべき、という意見が出ています。また、前述した在職老齢年金の廃止とセットで実施して、制度の見直しが高所得者優遇になるのを避けてはどうか、という意見もあります。

社会保障審議会年金部会における主な論点

4.次期年金改革のスケジュールは?:2024年末に審議会で取りまとめ、2025年に法案提出の見込み

年金制度の見直しは、日本の人口を調べる国勢調査を起点に、概ね5年ごとに行われています。通例どおりであれば、2024年の年末に社会保障審議会の年金部会での議論が取りまとめられ、それをもとに法案が作成されて、2025年の通常国会で審議される見込みです。次期制度改正がどうなるのか、審議会や国会での議論が注目されます。

【リンク集】

○厚生労働省 社会保険適用拡大 特設サイト
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/

○社会保障審議会 年金部会
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-hosho_126721.html

(ニッセイ基礎研究所 中嶋邦夫 保険研究部 上席研究員)

生24-3668,法人開拓戦略室

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