新型コロナウイルス感染症の影響により、企業はこれまでの働き方を大きく見直す必要に迫られました。例えば、従業員の感染リスクを下げるため、人力で行っていた作業を機械で代替する、テレワークを導入して外出しなくても働けるようにするといった具合です。
当初は、「コロナ禍においても事業を続けられる」体制をつくることが目的でしたが、ある程度状況が落ち着きつつある今、企業には「コロナ禍においても収益を上げられる」体制をつくることが求められます。
そのためには、より性能の高い設備を導入して作業時間を短縮する、働き方の大幅な変革で疲弊している従業員に適切な休息を取らせるなど、生産性向上・業務効率化に向けた取り組みが欠かせません。
そこで、本稿では、働き方改革関連の助成金の中でも、生産性向上や業務効率化を支援する代表的な助成金を紹介します。
※なお、これらの事業は令和2年度(令和元年度補正予算)の公募内容に基づいて記載していますが、その間新型コロナ感染症の状況により複数回の微調整が行われました。令和3年度も大枠は変わらなくとも微調整が行われる可能性があるので、確定した内容については各事業の公募要領をご参照ください。
1 ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(一般型)
1)補助金の概要、用途
生産設備や機械装置、システムの導入などにかかる費用負担を軽減できる補助金です。
例えば、製造業の場合、この補助金を使って最新設備を導入すれば、製品の加工時間を短縮するなどして生産性向上につなげることができます。
また、新型コロナウイルス感染症に対応するための特別枠が改編され、「低感染リスク型ビジネス枠」が新設されました。これは、「物理的な対人接触を減じることに資する革新的な製品・サービスの開発」、「物理的な対人接触を減じる製品・システムを導入した生産プロセス・サービス提供方法の改善」または「ポストコロナに対応するビジネスモデルの抜本的な転換に係る設備・システム投資」が対象となっており、通常枠とは別に補助率も引き上げられています。
2)補助金を申請できる対象事業者、補助金額
補助金を申請できる対象事業者は、設備投資などにより生産性の向上を図る中小企業、小規模事業者などで、補助金額(上限)と補助率は次のとおりです。
なお、設備投資は単価50万円以上であることが必要です。
3)補助金の申請方法、申請のポイント
補助金を申請する際は、付加価値額などについて所定の要件を満たす事業計画を策定し、電子申請システム「jGrants」を使って手続きを行います。
なお、申請にあたっては「GビズIDプライムアカウント」の取得が必要です。この補助金に関する問合せ窓口は、ものづくり補助金事務局サポートセンターです(GビズIDの新規取得等に関しては、GビズIDの事務局へお問合せください)。
申請して補助金を受け取るために知っておきたいポイントは次の3点です。
- 生産性向上に必要な、生産設備や機械装置、システムの導入に必要な経費が補助対象になります。取り組み内容の「革新性」が審査のポイントとなり、補助事業によって制度変更に伴う課題をどのように解決していくのか、技術能力や優位性が問われます。
- 低感染リスク型ビジネス枠は、通常枠よりも高い補助率に加え、「通常枠では補助対象とならない広告宣伝・販売促進費についても補助される」などのメリットがあります。
- これまでの実績がデータとして示されている「データポータル」の情報によれば、経営革新計画の承認取得や給与総額の年平均増加率などの加点項目の数と採択率がほぼ正比例しています。応募については可能な範囲で加点項目を付加するよう努力しましょう。
なお、2021年度の本補助金の申請は、2021年5月17日現在、9次募集(2022年2月締切予定)までが予定されています(変更の可能性あり)。
2 IT導入補助金(サービス等生産性向上IT導入支援事業)
1)補助金の概要、用途
ソフトウエアやクラウドサービスなど、ITツールの導入などにかかる費用負担を軽減できる補助金です。生産性向上に役立つITツール全般が補助の対象です。
例えば、この補助金を使って、受発注業務や売上管理などを自動化できるRPAや社内間の情報共有システムなどを導入すれば、作業や情報共有にかかる時間を短縮することができます。
また、2021年度の公募要領では、コロナ禍の状況に対応したビジネスモデルへの転換(労働生産性を向上させつつ対人接触の機会を低減するような業務の非対面化)に取り組む中小企業・小規模事業者向けに、通常枠より補助率が拡大された「低感染リスク型ビジネス枠」が設けられています。
2)補助金を申請できる対象事業者、補助金額
補助金を申請できる対象事業者は、ITツールを使って生産性の向上を図る中小企業、小規模事業者などで、補助金額(上限)と補助率は次のとおりです。
各類型の分類は、導入するプロセスの数やツールの要件、賃上げ目標の設定等により異なります。低感染リスク型ビジネス枠はいずれも非対面化ツールの導入が必須要件となります。
3)補助金の申請方法、申請のポイント
補助金を申請する際は、「IT導入補助金」サイトからIT導入支援事業者(ベンダー)とITツールを選択し、IT導入支援事業者と共同で給与支給総額などについて一定の要件を満たす事業計画を策定し、同サイト上で手続きを行います。
なお、申請にあたっては「GビズIDプライムアカウント」の取得、「SECURITY ACTION」での宣言実施が必要です。この補助金に関する問合せ窓口は、サービス等生産性向上IT導入支援事業コールセンターです。
申請して補助金を受け取るために知っておきたいポイントは次の2点です。
- IT導入補助金サイトでは、業種別の悩みに応じて必要なITツールの機能や、ITツールの活用事例などが掲載されています。ルーチンワークや手作業の自動化、社内コミュニケーションの改善など、自社の課題にあったITツールを選択しましょう。IT導入支援事業者が申請手続きをサポートしてくれるので、申請しやすい点も特徴です。一方IT導入支援事業者のサポートに頼りすぎるのも要注意です。決して採択率は高くないので、任せきりにせず、自社の計画がしっかり申請書に表現できているか確認することも重要です。
- 低感染リスク型ビジネス枠は、通常枠よりも高い補助率に加え、「PC・タブレットなどのハードウエアにかかるレンタル費用も補助対象となる」というメリットがあります。
なお、2021年度の本補助金の申請は、2021年5月17日現在、3次募集(2021年9月締切予定)までが予定されています(変更の可能性あり)
3 働き方改革推進支援助成金 (労働時間短縮・年休促進支援コース)
1)助成金の概要、用途
時間外労働の上限設定(36協定の時間数)を引き下げたり、新しい休暇制度(特別休暇や時間単位の年次有給休暇)を導入したりして、改善の成果を上げた場合に、それにかかる経費の一部が助成されるものです。
例えば、作業効率を引き上げるための設備を導入し残業削減に成功した企業が、その結果、自社の36協定で定める時間外労働の上限を一定以内まで引き下げ、所轄労働局に届出て、成果目標を達成した場合、設備の導入にかかった費用の一部が申請の対象となります。
また、コロナ禍においては、テレワークの導入によってオフィスにいるときよりも仕事の様子が見えにくくなり、従業員が過重労働に陥るリスクが高まっている企業が少なくありません。こうした企業が、外部の専門家に依頼して時間外労働の削減などに関する研修を実施した場合も、その費用も対象となります。
2)助成金を申請できる対象事業者、助成金額
助成金を申請できる対象事業者は、次のいずれにも該当する中小企業です。
- 労働者災害補償保険の適用事業主であること
- 交付申請時点で、「成果目標」1から3の設定に向けた条件を満たしていること
- 全ての対象事業場において、交付申請時点で、年5日の年次有給休暇の取得に向けて就業規則等を整備していること
成果目標は次の①~③のいずれかから1つ以上選択します。また、下記の成果目標に加えて、対象事業場で指定する労働者の時間当たりの賃金額の引上げを3%以上行うことを成果目標に加えることができます。
- ①全ての対象事業場において、令和3年度または令和4年度内において有効な36協定について、時間外労働時間数を縮減し、月60時間以下、または月60時間を超え月80時間以下に上限を設定し、所轄労働基準監督署長に届出を行うこと
- ②全ての対象事業場において、特別休暇(病気休暇、教育訓練休暇、ボランティア休暇等)の規定をいずれか1つ以上を新たに導入すること
- ③全ての対象事業場において、時間単位の年次有給休暇の規定を新たに導入すること
また、成果目標を目指すにあたっては、支給対象となる取組を、次の(1)~(7)のいずれかから1つ以上実施することとされています。
- (1)労務管理担当者に対する研修(業務研修を含む)
- (2)労働者に対する研修(業務研修を含む)、周知・啓発
- (3)外部専門家によるコンサルティング
- (4)就業規則・労使協定等の作成・変更
- (5)人材確保に向けた取組
- (6)労務管理用ソフトウェア、労務管理用機器、デジタル式運行記録計の導入・更新(パソコン、タブレット、スマートフォンは原則対象外)
- (7)労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新(パソコン、タブレット、スマートフォンは原則対象外)
助成金額(上限)と助成率は次のとおりです。
【働き方改革推進支援助成金 (労働時間短縮・年休促進支援コース)】
(出所:厚生労働省「『働き方改革推進支援助成金』労働時間短縮・年休促進支援コースのご案内」を基に作成)
3)助成金の申請方法、申請のポイント
助成金を申請する際は、労働時間の削減や休暇の取得促進に向けて自社が実施する取り組み(新設備や労務管理用機器、ソフトウエアの導入、コンサルティングの実施など)を決め、「働き方改革推進支援助成金交付申請書」に必要事項を記載のうえ、審査に必要とされる書類を添付し、所轄労働局雇用環境・均等部(室)に提出します。問合せ窓口も同じです。
申請して助成金を受け取るために知っておきたいポイントは次の2点です。
- 時間外労働の上限設定の引き下げ(36協定の変更)、特別休暇の導入、時間単位の年次有給休暇の導入などの「成果目標」の達成状況に応じて助成金が支給されます(成果目標は、前述の申請書に記載します)。売上などとの両立を考えると、複数の取組を一度に実施することは難しいので、まずは目標を1つに絞って取り組むことが大切です。
- 成果目標を達成するための取り組みは、新設備や労務管理用機器、ソフトウエアの導入、コンサルティングの実施、人材確保に向けた取り組みなど広く認められます。「これも経費として認められるのか?」と疑問に思ったら、所轄労働局雇用環境・均等部(室)に相談してみるとよいでしょう。
なお、2021年度の本助成金の申請は、2021年11月30日までとされています。
以上
(執筆 淡河 敏一(おおが としかず) 株式会社アライブビジネス代表取締役
認定経営革新等支援機関)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ)
生21-2259,法人開拓戦略室