企業経営を取り巻くリスクは、豪雨による浸水被害などの自然災害に起因するものから、社用車の交通事故、顧客情報の漏えいなどの身近な業務に起因するものまで、さまざまです。
こうしたリスクを移転するために、企業は損害保険に加入します。しかし、「そもそも自社のリスクをしっかり把握できていない」「損害保険は種類が多くてどれを選んだらよいか分からない」といった問題があるケースは意外と少なくありません。
「損害保険への加入を検討しているが、どの保険に加入してよいのか分からない」という人にお役立ていただけるよう、企業経営を取り巻くリスクにはどのようなものがあるのか、それぞれのリスクに対応する損害保険は何かを分かりやすく整理していきます。
1 企業経営を取り巻くリスクにはどんなものがある?
企業経営を取り巻くリスクの捉え方はさまざまですが、ここでは次の6つに分類し、詳細を確認していきましょう。
(出典:あいおいニッセイ同和損保ホームページ「リスクマップ(業種共通))
1)労務災害リスク
業務中の事故などによって従業員がケガをしたり、ハラスメントにより従業員から損害賠償請求されたりするリスクです。例えば、次のようなケースです。
「ハラスメントや長時間労働などを理由に適応障害を発症した従業員が自殺。従業員の両親が訴えた」
「従業員が就寝中に心室細動を発症し、脳性まひなどの後遺障害が残った。過重な業務と長時間労働を強いた企業の安全配慮義務違反として、従業員と両親が訴えた」
訴えられた企業は、慰謝料や葬祭費用、治療費などの賠償金を支払わなければならないかもしれません。
2)賠償責任リスク
業務中に他人にケガを負わせてしまったり、自社の製品・サービスなどの不備が原因で取引先や利用者に損失を与えてしまったりするリスクです。例えば、次のようなケースです。
「製造・販売した菓子に異味・異臭がするとして消費者からクレームが殺到。製造・販売する企業は、仕入れた原材料に原因があったとして仕入先のメーカーを訴えた」
「サーバーが不正アクセスを受けて顧客のクレジットカード情報が漏えいした。加盟店規約に基づき、クレジットカード会社から再発行などの手続きに掛かった費用を請求された」
訴えられた企業は、クレーム対応による事故対応費用、謝罪広告費用、事故原因の調査費用、弁護士への法律相談費用などを支払わなければならないかもしれません。
3)財物損害リスク
オフィスのある建物や工場内の設備・什(じゅう)器等、商品・製品等が損害を被るリスクです。例えば、次のようなケースです。
「火災によって工場が焼失し、生産用の設備・什(じゅう)器等が使えなくなった」
「豪雨によって倉庫が浸水し、出荷予定だった商品が水浸しになった」
設備・什(じゅう)器等や商品・製品等が損害を被った場合、それらの修理費用や交換費用などを捻出しなければならないかもしれません。
4)休業損害リスク
火災などの事故によって事業を継続できず、休業に追い込まれるリスクです。例えば、次のようなケースです。
「台風によって工場や生産設備が損壊し、商品を生産できなくなった」
「火災によって店舗が全焼し、長期間の休業を余儀なくされた」
休業に追い込まれた企業は、休業中でも発生する人件費、臨時の仮店舗等の賃借費用などを捻出しなければならないかもしれません。
5)自動車リスク
業務で使用する自動車での事故による損害賠償請求や、自動車の破損などのリスクです。例えば、次のようなケースです。
「業務中に自動車を運転し、通行人と接触してケガを負わせた」
「事故により自動車が破損した」
自動車事故や故障に巻き込まれた企業は、ケガを負わせた人の治療費用やお見舞い金、自動車を修理する費用などを捻出しなければならないかもしれません。
6)経営リスク
経営者の身に万が一の事態が起きたり、ケガや病気によって経営から長期離脱しなければならなくなったりするリスクです。例えば、次のようなケースです。
「経営者が不慮の事故に巻き込まれて長期入院し、会社が回らなくなった」
「パワハラを理由に従業員が会社役員個人に対し、損害賠償請求をした」
経営層の長期離脱や訴訟などのリスクを負った企業は、経営者の入院費用や損害賠償請求に対応するための裁判費用などを捻出しなければならないかもしれません。
こうしたさまざまなリスクに対し、企業はどんな対策を講じていけばよいのでしょうか。以降では、6つのリスクに備える損害保険の種類を紹介します。
2 各リスクに応じた損害保険とは?
1)労務災害リスクに備える「業務災害補償保険」「団体長期障害所得保障保険」
従業員のケガや病気などといったリスクに備える保険の1つが業務災害補償保険です。業務に起因する従業員のケガを補償する他、事故発生から一定期間内に亡くなった場合の死亡補償、後遺障害補償、入院補償、手術補償などを備えています。
中には、治療のために必要な医療器具の購入費といった出費に備えるオプションを付帯できるものもあります。
また、団体長期障害所得補償保険(GLTD)という保険もあります。従業員がケガや病気で、長期にわたって働けなくなったときの所得損失を補償します。福利厚生の1つとして用意することで従業員のモチベーション向上、人材採用力の向上などが期待できます。
GLTDについては、次のコンテンツで詳しく解説しています。
従業員の長期休業に備え準備すべきこと2)賠償責任リスクに備える「賠償責任保険」
他人にケガを負わせたり、自社製品などに起因する事故を起こしたりといったリスクに備えるための保険の1つが賠償責任保険です。作業場や施設内での自動車や車両に起因する事故、顧客から預かった財物の損壊、広告宣伝活動による名誉棄損やプライバシーの侵害など、他人の身体の障がい、財物の損壊に伴う損害を補償します。
中には、サイバー攻撃によって個人情報が流出したときなどの調査費用や再発防止費用、システム復旧費用などを補償するオプションをセットできるものもあります。
企業の賠償責任リスクは幅が広く、対応する賠償責任保険もさまざまなものがあります。詳しくは、次のコンテンツで解説しています。
企業の賠償リスク対策! 賠償責任保険の種類と選び方3)財物損害リスクに備えるなら「事業活動総合保険」
建物や設備・什(じゅう)器等、商品・製品等に対する損害に備えるための保険として、事業活動総合保険があります。
「火災」や「台風」などの自然災害、「建物の外部からの物体の衝突」や「電気的または機械的事故」、「その他の不測かつ突発的な事故」などによる財物の損害を補償します。
4)休業損害リスクへの備えも「事業活動総合保険」
事業活動総合保険では休業による損害へも備えることができます。休業によって発生する休業損失、休業時でも発生する従業員の人件費、仮店舗の賃借費用、営業再開時にかかる広告費用などを補償します。
5)自動車リスクに備える「事業用自動車保険」
自動車事故などの損害に備えるための保険の1つが事業用自動車保険(法人向け自動車保険)です。対人や対物による損害はもとより、故障によって自動車が動かなくなってしまったときのレッカー車によるけん引費用、電車など他の交通手段や代車を使ったときの費用、修理後の搬送費用などを補償するものもあります。
また、事故によってケガをした相手へのお見舞い費用、事故によって乗車していた従業員が死亡、もしくは後遺障害を被ったときに事業主が負担する費用を補償するものもあります。
6)経営リスクに備える「経営者保険」「雇用慣行賠償責任保険」
経営者のケガや病気による長期離脱に備えるための保険の1つが経営者保険です。突然の事故による入院、死亡などによって生じた損害を補償します。経営者不在によって業績が悪化したときの赤字を補てんするなどの用途にも利用できます。
経営者に万が一のことが起こったら? 備えておきたい3つの課題また、企業がハラスメント行為を理由とする、従業員からの賠償請求リスクに備える保険の1つに雇用慣行賠償責任保険があります。企業や役員個人が訴えられた際の弁護士への相談費用や損害賠償金を補償します。
3 「取引信用保険」で企業間取引のリスクにも備えよう
主な6つのリスクの他、注意しておきたいのが企業間取引に関わるリスクです。最近では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大などによって、取引先企業である販売先や発注元が倒産したり、支払いが遅延したりすることにより、売掛債権が回収できなくなるリスクが懸念されています。
このような場合に、設定した支払限度額内の債権が補償されるのが取引信用保険です。取引信用保険には、次のようなメリットがあります。
- 貸倒金額の一定部分を保険金として受け取ることで、キャッシュフローの安定化が図れる
- リスクの自社許容額引上げにより、ビジネスチャンスを拡大できる
- 保険会社による取引先のリスク審査を活用し、自社の与信管理を向上できる
- 取引金融機関や他の取引先企業など、社外に対する信用力が向上する
4 新型コロナウイルス感染症によるリスクはどうする?
昨今の新型コロナウイルス感染症のまん延に伴い、損害保険の中には、リスクの範囲を拡大しているものもあります。
例えば、新型コロナウイルス感染症に罹患した人が店舗等の施設にいたことで、保健所その他の行政機関による施設の消毒や、その他の措置がなされたことで、損失等が生じた場合に保険金が支払われるというものです。
感染症対策への重要度が高まっている今だからこそ、withコロナ時代に必要な備えを準備しておきましょう。
以上
(執筆 日本情報マート)
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生21-1007,法人開拓戦略室