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厚生年金の適用拡大と働き控え対策

法人保険の活用方法

2026-09-02

2025年6月に成立した年金制度改正に基づいて、労働者に対する厚生年金の適用拡大が再開されます。本稿では、拡大の内容と、並行して行われる働き控え対策などをご紹介します。

目次

1.今後の適用拡大のポイント:3つの要件が廃止に

(1)これまでの流れ:2016年から段階的に拡大

日本の公的年金制度には、国民年金と厚生年金があります。厚生年金の対象になるかは、個人の就労状況(労働時間等)と職場(事業所)の形態によって決まります。

正社員などのフルタイム労働者の場合、個人の就労状況については、週の所定労働時間や月の所定労働日数が勤め先の通常の労働者の4分の3以上で、勤務期間が2か月超の見込みだと、厚生年金の対象となります。職場の形態については、法人の事業所の場合は業種や規模に関係なく厚生年金の対象となり、個人事業所の場合は法定された業種かつ通常の厚生年金加入者に該当する従業員が常時5人以上の場合に厚生年金の対象となります。

パート労働者(短時間労働者)の場合は、前述した通常の労働者の4分の3以上という基準を満たさなくても、パート労働者に特有の要件を満たした場合には厚生年金の強制適用の対象となります【図表1上段】。パート労働者への厚生年金の適用は2016年に始まり、段階的に拡大されてきました。例えば企業規模の要件は、当初は社員(厳密にはフルタイム労働者の要件で厚生年金に加入する方)が500人超となっていましたが、現在では50人超にまで広がっています【図表1の水色の部分】。

(2)今後のポイント:3つの要件が廃止に

今回の制度改正では、これまでの適用拡大がさらに進み、パート労働者に特有な「賃金要件」と「企業規模要件」、個人事業所の「業種要件」の廃止が決まりました【図表1のオレンジ色の部分】。

パート労働者に特有な賃金の要件は、2026年10月に廃止される予定です。現在は、所定内賃金(基本給)が月額8.8万円以上となっており、年収に換算して「106万円の壁」とも呼ばれます。しかし、2026年3月末にすべての都道府県の最低賃金が労働時間要件の下限(週20時間)で働いた場合に賃金要件(月8.8万円)を超える水準(時給1016円以上)になったため、2026年10月に廃止されます。

パート労働者に特有な企業規模の要件は、2027年10月から36人以上、2029年10月から21人以上、2032年10月から11人以上へと対象が広がり、2035年10月に廃止される予定です。当初の案では2029年10月までに廃止される計画でしたが、影響を受ける企業などに配慮して、時間をかけることになりました。

個人事業所の業種の要件は、2029年10月に廃止される予定です。当初の案ではすべての個人事業所が対象になる計画でしたが、該当する事業所への影響などに配慮して、当面の間は2029年10月以降に開業した事業所だけが対象になります。

なお、パート労働者に特有な企業規模の要件や個人事業所の要件を満たさない場合でも、労使の合意があれば任意で厚生年金の適用を受けられます(任意特定適用事業所、任意適用事業所)。企業にとっては社会保険料の負担が増えますが、年金を気にする年齢層などの雇用を確保する対策の1つとして、この仕組みの活用が考えられます。

【図表1】 厚生年金の適用拡大の主な経緯と予定

◆パート労働者

拡大時期

所定労働時間

所定内賃金(基本給)

勤務期間

企業規模

2016年10月

週20時間以上

月8.8万円以上

1年以上の見込み

社員500人超

2022年10月

同上

同上

廃止

社員100人超

2024年10月

同上

同上

社員50人超

2026年10月

同上

廃止

同上

2027年10月

同上

社員35人超

2029年10月

同上

社員20人超

2032年10月

同上

社員10人超

2035年10月

同上

廃止

◆個人事業所

拡大時期

業種

事業所規模

1953年改正

土木等や医療などを追加(計16業種)

常時5名以上を使用

2022年10月

士業を追加

同上

2029年10月

廃止(不問)

同上

(注1)パート労働者の2022年10月以降の勤務期間要件はフルタイム労働者と同じ(2か月超の見込)。

(注2)パート労働者の企業規模要件の人数は、通常(フルタイム労働)の厚生年金加入者で計算。

(注3)個人事業所の業種要件の廃止は、当分の間、2029年10月以降に開業した事業所のみが対象。

(出典)厚生労働省「年金制度基礎資料集」等から作成。

2.働き控えを防ぐ仕組み:拡大から3年間は本人負担を軽減など

厚生年金の適用拡大の際に懸念される問題の1つが、従業員の働き控えです。厚生年金の対象になると将来の年金が増えるなどのメリットがありますが、これまで扶養の範囲内で働いていた人には、保険料負担によって目先の手取り収入が減るというデメリット、いわゆる「年収の壁」の問題があります。そこで今回の改正では、働き控えを防ぐ2つの仕組みが導入されます。

(1)パート労働者の保険料負担を支援

働き控えに関係する第1の壁は、厚生年金の適用基準です。以前は「106万円の壁」と呼ばれていましたが、前述した最低賃金の引上げによって、時間要件を満たせば賃金要件を自動的に満たす状況になっています。そのため現在では、所定労働時間が「週20時間以上」か否かが、働き控えに関係する壁になっています。

そこで、2026年10月以降に新たにパート労働者が厚生年金の対象となる事業所に対して、パート労働者本人の保険料負担を支援する制度(保険料調整制度)が、設けられます。事業主が簡素な申込を行うことで、最長で3年間、パート労働者の月収(標準報酬月額)に応じて、本人分の保険料負担が軽減されます【図表2】。

当初の案では、本人分の保険料の軽減に必要な費用は、事業主が負担することになっていました。しかし、今後の適用拡大の対象となる企業の負担などに配慮して、最終的には年金制度が費用を負担する(事業主へ還付する)仕組みになりました。

なお、企業規模の要件を満たさない事業所でも、2026年10月以降に任意でパート労働者への厚生年金の適用を始める(任意特定適用事業所になる)と、企業規模要件の段階的な拡大を待たずに、この制度を活用できます。

【図表2】 適用拡大に伴う手取りの減少を抑える支援 (保険料調整制度)

◆本人分の保険料負担の軽減度合 (特例適用の1~2年目)

標準報酬月額

8.8万円

9.8万円

10.4万円

11.0万円

11.8万円

11.8万円

11.8万円

?(年収概算)

(106万円)

(118万円)

(125万円)

(132万円)

(142万円)

(142万円)

(142万円)

保険料の本人負担割合

 

 

 

 

 

 

 本来

50%

50%

50%

50%

50%

50%

50%

 軽減分 ※

-25%

-20%

-12%

-9%

-5%

-2%

0%

 軽減後 ※

25%

30%

38%

41%

45%

48%

50%

◆イメージ図

適用拡大に伴う手取りの減少を抑える支援(保険料調整制度)イメージ図

(注1)特例適用3年目の軽減分は1~2年目の半分。年数は当該事業所が当制度の利用を開始した日が起点。

(注2)厚生年金の保険料率は労使合計で18.3%。健康保険の保険料率は都道府県や組合で異なる。

(出典)社会保障審議会年金部会(2025.6.30)「参考資料」等から作成。

(2)「130万円」の判定に一時的な残業代を含めない取り扱い

働き控えに関係する第2の壁は、国民年金の第3号被保険者に該当するかを判定する、いわゆる「130万円の壁」です。国民年金の第3号被保険者は、厚生年金加入者に扶養される配偶者で日本に居住する20~59歳の人を指します。この「扶養される」を判定する基準の1つが、年収130万円未満となっています。

130万円を判定する年収は、今後1年間の収入の見込みで判断されます。この収入は様々な収入が対象になっており、給与収入における残業代も含まれます。そのため、年末の繁忙期などに、パート労働者が残業を控える一因になっていました。

そこで2026年4月から、給与収入だけの人については、労働条件通知書などの労働契約の内容がわかる書類に記載された賃金から見込まれる年間収入が130万円未満で、ほかの収入が見込まれない場合には、原則として被扶養者と認定する取り扱い(労働契約内容による年間収入での被扶養者の認定の取り扱い)が始まりました【図表3】。これによって、一時的な残業によって実際の収入が130万円を超えても、第3号被保険者から外れなくなります。

【図表3】 いわゆる「130万円の壁」への対応 (一時的な残業代を含めない取扱い)

 いわゆる「130万円の壁」への対応(一時的な残業代を含めない取扱い)

(出典)働き方の多様化を踏まえた被用者保険の適用の在り方に関する懇談会(2024.07.01)「参考資料2」等から作成。

3.厚生労働省の特設サイト:従業員への説明に使えるショート動画などを公開

厚生労働省は、企業や従業員が適用拡大に対応しやすいように、特設サイトを設けています。

事業主や労務担当者の方に向けて、対象者の把握や社内説明のポイントを整理した手引きや、社会保険料の事業主負担分の試算ページ、社会保険労務士等を無料で派遣する制度やキャリアアップ助成金制度の紹介などが、掲載されています。また、従業員の方に向けた説明やショート動画、手取り額や年金額の試算ページなども掲載されています。

適用拡大への対応を考える際に、このサイトの情報が参考となるでしょう。

【参考情報】

○厚生労働省:社会保険適用拡大特設サイト
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/

○厚生労働省:社会保険適用拡大に関する多言語翻訳資料
 (英語、中国語、フィリピノ語、ベトナム語)
https://www.mhlw.go.jp/stf/tekiyoukakudai_multilingual.html

○日本年金機構:労働契約内容による年間収入での被扶養者の認定の取り扱い
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/taisetu/jigyosho/2026/202605/0501.html

(ニッセイ基礎研究所 中嶋邦夫 保険研究部 主席研究員)

生26-2316,法人開拓戦略室

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