製造に直接関わる人にかかる費用「労務費」を計算するには、直接労務費と間接労務費で方法が異なります。
本記事では経営者向けに、一般的な直接労務費と間接労務費の計算方法、建設業の工事見積書にある労務費の確認や労務費率について解説します。
1.労務費の計算方法とは?
労務費の計算方法は、「直接労務費」と「間接労務費」でそれぞれ異なります。
- 直接労務費:製造部門の従業員(直接工)に支払う給与(内訳:基本給+時間外労働の割り増し賃金)
- 間接労務費:「直接労務費」以外の給料や従業員賞与手当、退職給付費用、法定福利費など
直接労務費と間接労務費については次のコンテンツで詳しく解説しています。
会社の労務費とは?建設業の工事での意味も解説
なお、労務費の計算はMicrosoft(マイクロソフト)社の表計算ソフト「Excel」(エクセル)などで自ら計算式を入力するか、会社で労務管理システムを導入しているのであればその自動計算の機能で出力するのが一般的です。
直接労務費の計算方法
直接労務費は「1時間あたりの賃金(円)×製品製造時間(時間)」で計算します。
1時間あたりの賃金は「労務費レート」や「賃率」とも呼ばれ、「直接工の賃金(円)÷直接作業の総時間(時間)」で求めます。
この計算式により、もし1人の従業員が複数の製造ラインに関わっていても、実働の作業工数を正確に計算できます。
なお、直接労務費を求める計算式で使用する時間の単位は会社の管理のしやすさによって1時間・1分・1秒のいずれかで揃えます。
計算時、その他にも、労働基準法などの各種法令の指定やルールは遵守する必要があります。
例えば、夜間勤務(午後10時から午前5時まで)であれば、割増料金も加味し、「通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した金額を割り増し」することが求められます。
参照:労働基準法(労基法)第三十七条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)|e-Gov
間接労務費の計算方法
間接労務費は直接労務費以外の労務費をすべて合計して算出します。
なお、労務費の全体額がわかっているのであれば「労務費?直接労務費」でも、間接労務費を求めることができます。
間接労務費に計上する費用は、従業員の雇用形態や福利厚生など、会社の事情によっても異なりますが、主に次の項目が挙げられます。
間接労務費となる費用の主な例
費用名 |
備考 |
販売費および一般管理費 |
製造部門以外の従業員に支払う給与 |
雑給 |
パートやアルバイトなど時間給や日給の従業員に支払う給与 |
従業員賞与手当 |
ボーナス、通勤手当、家族手当など |
退職給付金 |
従業員の退職金支払いに備えて一定金額を積み立てるもの。 |
法定福利費 |
雇用した従業員が加入する社会保険(労災保険、健康保険、厚生年金保険、雇用保険など)の会社負担分。 |
退職給付金は、次のような退職金制度を運営に際しての積立て費用を指します。
福利厚生制度名 |
概要 |
退職一時金制度 |
会社の内部留保で退職時にまとまったお金を一時金で支払う |
確定給付企業年金制度 |
退職後に「年金」という形で退職金を定期的に支払う |
企業型確定拠出年金制度(企業型DC) |
会社が掛金を積立て、年金額や受け取り方法も含めて社員が運用する |
企業型DCについては次のコンテンツで詳しく解説しています。
企業型DCを導入する方法は?個人型DCや退職金制度との違いを解説
2.建設業の労務費の計算方法とは?
建設業の労務費の計算も、冒頭で解説したケースと同様の流れです。
例えば工事費用を算出した見積書に記載される「労務費」が妥当なのかを調べたいのであれば、まず、工事に直接関わる職人の「1時間あたりの賃金」(労務費レート・賃率)を確認します。
「直接工の1時間あたりの賃金×施工完了までの時間」で、直接労務費が求められます。
なお、工事に直接関わる職人が複数人おり、それぞれの専門性の違いから賃金が異なる可能性もあるため、注意が必要です。
また、見積書に「一般管理費」や「現場管理費」などそれ以外の現場監督や事務所スタッフに支払う間接労務費が計上されている場合、例えば総費用全体の1割を計上するなど会社で算出式が設定されているのが一般的です。
3.労務費率とは?
労務費率とは、建設業の請負工事において労災保険の保険料の計算で用いる比率であり、労務費の計算の際には直接関係しない概念です。
労務比率は労働保険の徴収に関する法令の別表にて定められ、建設事業の種類によっても値が異なります。
参照:労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則別表第2(第13条関係)労務費率表|e-Gov
また、労務費率の値は労務費率調査に基づき、定期的に見直されます。
参照:労務費率調査|厚生労働省
なお、一般的に、労働保険の保険料を計算する場合に使用するのは「労災保険率」です。
事業主がその事業に関わるすべての労働者に支払う賃金の総額(賃金総額)に、厚生労働省「労災保険率表」にて決定される事業ごとに異なる労災保険率を乗じて、次の式のように算定するのが原則です。
参照:労働保険の保険料の徴収等に関する法律(徴収法) 第十一条 (一般保険料の額)|e-Gov
参照:労災保険率表|厚生労働省
しかし、建設業の請負工事は賃金総額を正確に算定することが困難とみなされて特例となり、次の計算式で算出する際に「労務比率」が使用されます。
※請負金額×労務費率が賃金総額にあたる
参照:労務費率について|厚生労働省
(執筆 株式会社SoLabo)
生23-4229,法人開拓戦略室