1.はじめに
昨今、企業の「物流戦略」が重要な経営課題のひとつに位置づけられています。本稿では、ニッセイ基礎研究所が、三菱地所リアルエステートサービス株式会社と共同で、日本国内の主要荷主企業および物流企業を対象に実施した「企業の物流戦略および物流施設利用に関するアンケート調査」をもとに、企業の物流戦略の現状と課題について解説します。
2.「物流の2024年問題」の影響
物流業務の現場では、「物流の2024年問題」と呼ばれる問題が浮上しています。「物流の2024年問題」とは、働き方改革関連法の改正により、2024年4月から自動車運転業務に対して、時間外労働時間の上限規制(年間960時間)が適用され、労働時間が短くなることで、輸送能力が不足し、荷物が運べなくなる可能性が懸念されている問題です。
「『物流の2024年問題』の影響」について質問したところ、荷主企業、物流企業ともに「輸送コストの高騰」(荷主企業92%・物流企業71%)との回答が最も多く、次いで「集荷時間などの輸送スケジュール」(荷主企業50%・物流企業60%)が多い結果となりました(図表-1)。
前述の通り、「物流の2024年問題」は当初、荷物が運べなくなることが懸念されていますが、「荷物が運べない、配送遅延」(荷主企業47%・物流企業33%)との回答は一定数みられたものの、足元では、人手不足等に伴う輸送コストの上昇が課題として強く意識されているようです。「特に影響はない」との回答は、荷主企業では5%、物流企業では8%にとどまっていることから、「物流の2024年問題」が、各企業の物流業務に広く影響を及ぼしていることがうかがえます。
また、「『物流の2024年問題』への対策状況」について、「対策は実施しているが、まだ十分でない」(荷主企業68%・物流企業63%)との回答が最も多く、次いで「すでに対策を実施済み」(荷主企業15%・物流企業25%)が多い結果となりました(図表-2)。
2024年4月の時間外労働時間の上限規制適用を経て、対策が進められているものの、その対応状況は十分でないとの認識を持つ企業が多いと言えます。
図表-1 物流の2024年問題」の影響

(出所)ニッセイ基礎研究所・三菱地所リアルエステートサービス「企業の物流戦略および物流施設利用に関するアンケート調査」
図表-2 「物流の2024年問題」への対策状況

(出所)ニッセイ基礎研究所・三菱地所リアルエステートサービス「企業の物流戦略および物流施設利用に関するアンケート調査」
3.物流業務における課題
企業の物流業務を取り巻く社会情勢は、前述の「物流の2024年問題」をはじめとして、大きく変化しており、それに伴い様々な課題が生じています。そこで、「物流業務における課題」について荷主企業に質問したところ、「コスト削減のための在庫圧縮」(49%)が最も多く、次いで「トラックドライバーの確保」(41%)、「輸送・配送時間の短縮」(40%)の順に多い結果となりました(図表-3)。
荷主企業においては、物流の恒久的な課題であるコスト削減を目的とした在庫圧縮に次いで、トラックドライバーの確保が喫緊の課題となっています。トラック運送業界の労働需給を示す「労働力の不足感の判断指標」をみると、2024年第3四半期は「+79.4」とコロナ禍前の水準に戻っており、トラックドライバーの労働需給は逼迫した状況が続いています(図表-4)。
物流企業では、「トラックドライバーの確保」(57%)、「倉庫内作業(包装・仕分け)人員の確保」(57%)、「働き方改革の推進」(57%)が上位を占めました(図表-3)。トラックドライバーや倉庫内作業人員の不足が加速するなか、労働環境の改善など「働き方改革」を推進したいと考える企業が増えている模様です。
図表-3 物流業務における課題

(注1)回答は5つまで
(注2)回答割合が20%以上の項目
(出所)ニッセイ基礎研究所・三菱地所リアルエステートサービス「企業の物流戦略および物流施設利用に関するアンケート調査」
図表-4 トラック運送業界の雇用状況(労働力の不足感の判断指標)

(注1)「不足」×2+「やや不足」-「やや過剰」-2×「過剰」
(注2)回答社数構成比
(出所)公益財団法人全日本トラック協会「トラック運送業界の景況感」をもとにニッセイ基礎研究所作成
また、「物流施設の自動化への対応」(荷主企業32%・物流企業38%)との回答も上位にあがっています(図表-3)。前述の通り、人手不足が深刻化するなか、物流施設の自動化・機械化を推進し、施設内作業の省力化や現場作業の負担軽減を図る取組みが進められています。国土交通省「物流総合施策大綱(2021年度~2025年度)」では、「物流業務の自動化・機械化、デジタル化により、従来のオペレーションの改善や働き方改革などの効果を定量的に得ている事業者」の割合を2025年度までに70%に高める目標を掲げています。
「環境配慮の取組」(荷主企業28%・物流企業26%)との回答も一定数あがりました。2021年4月の気候変動サミットで、2030年度に温室効果ガス排出量を46%削減(2013年度比)する目標が示されて以降、物流分野においても環境配慮の取り組みが一層求められています。こうしたなか、脱炭素社会の実現に向けて、トラックから鉄道や海運などに輸送手段を変更する「モーダルシフト」への期待が高まっています。「物流総合施策大綱(2021年度~2025年度)」では、「モーダルシフト」に関して、鉄道による貨物輸送量を184億トンキロ(2019年度)から209億トンキロ(2025年度)に、海運による貨物輸送量を358億トンキロ(2019年度)から389億トンキロ(2025年度)に増やす目標を掲げています。アンケート調査でも、物流企業において、「モーダルシフトの推進」(21%)との回答が一定数あがっています。
4.おわりに
物流業務において、荷主企業、物流企業ともに、トラックドライバーの確保が喫緊の課題となっています。また、倉庫内作業人員の不足も大きな課題となっているようです。併せて物流施設の自動化・機械化や環境配慮の取り組みも求められています。
こうした様々な課題には、中長期的な視点で取り組む必要があります。「物流戦略の長期ビジョン・中期計画策定の状況」について、物流企業について質問したところ、「策定、かつ定期的に見直し」(65%)との回答が最も多かった一方で、荷主企業では、「策定していない」(51%)が最も多い結果となりました(図表-5)。
ただし、2024年5月の物流関連2法改正により、一定規模の事業者が「特定事業者」に指定され、物流効率化に関する中長期計画の策定と実施状況の報告が義務付けられることになりました 。今後は、荷主企業においても、長期ビジョン・中期計画が策定され、物流に関する課題の解決への取り組みが一層進むことが期待されます。
図表-5 物流戦略の長期ビジョン・中期計画策定の状況

(出所)ニッセイ基礎研究所・三菱地所リアルエステートサービス「企業の物流戦略および物流施設利用に関するアンケート調査」
(執筆)ニッセイ基礎研究所 金融研究部 吉田 資
生24-6717,法人開拓戦略室