家族を持つ社員に対して「家族手当」を支給する会社は珍しくありませんが、似た概念の「扶養手当」や「育児手当」とどう違うか、把握しているでしょうか。
本記事では経営者の方向けに、家族手当の基本から、類語との意味の違い、相場金額や支給条件まで解説し、家族手当に関するよくある質問についても紹介します。
1.家族手当の基本
家族手当とは、家族を養う世帯主の社員に対して、会社が給与と一緒に行う現金支給、またはその福利厚生制度のことを指します。
世帯を同じくする家族の人数が多いほど嵩む生活費等を補助する目的で支給する手当として「扶養手当」や「育児手当」とまとめて扱われるケースもあります。
家族手当における「家族」の定義は会社ごとに様々ですが、同居して生計を同一にしている社員の配偶者や子、親などを支給対象とするケースが一般的と考えられます。
家族手当を導入している会社は珍しくなく、統計データとして「家族手当、扶養手当、育児支援手当など」を支給している企業は「68.6%(2020年調査計、企業規模を合算した割合)」に上ります。
なお、前回の同じ調査では「66.9 %(2015年調査計)」であるため、「家族手当」を支給する会社は微増の傾向が見られます。
企業規模別に見ると、規模が小さい企業よりも大きな企業の方が支給する傾向が見られ、1000人以上の企業では約75%が家族手当に類する手当を導入しています。
企業規模別の家族手当の支給企業割合
企業規模・年 |
家族手当、扶養手当、育児支援手当など |
令和2年(2020年)調査計 |
68.6(%) |
1,000人以上 |
75.6(%) |
300~999人 |
76.0(%) |
100~299人 |
72.5(%) |
30~99人 |
66.3(%) |
平成27年(2015年)調査計 |
66.9(%) |
*次の参照先にある「第18表 諸手当の種類別支給企業割合(令和元年11月分)」から「家族手当、扶養手当、育児支援手当など」の列を抜粋し、表として再構成
参照:令和2年就労条件総合調査 結果の概況|厚生労働省
なお、家族手当は基本給と異なり賞与等の算定基礎には含まれませんが、現金支給の場合課税対象となり、社員にとっては家族手当の部分は所得税や住民税の対象となる点、会社にとっては社会保険料や労働保険料の費用負担分が増える点は、留意しておく必要があります。
扶養手当との違い
扶養手当とは、扶養(ふよう)する家族がいる世帯主の社員に対して、会社が給与と一緒に行う現金支給やその福利厚生のことです。
扶養家族とみなされる条件には、未就学児や学生、定年などで職に就いていないケース、パート・アルバイトで収入年収106万円(月額8.8万円)を超えないように抑えているケースが見られます。
家族手当と扶養手当の違いは「社員と生計を同一にする者が自活できるほどの収入がある場合に、手当の支給対象とみなされるか」という点です。
家族手当は社員の家族に収入があっても、手当が支給される傾向がありますが、扶養手当は支給対象外となる傾向があります。
例えば、配偶者と社員の2人家族で共働きのケースで考えてみましょう。
家族手当の場合、社員の配偶者が社員と同程度の収入があっても、配偶者が家族であることは変わらないため、家族手当は支給されます。
一方、同条件で扶養手当の場合、扶養の範囲を超えた収入がある配偶者は扶養とみなされないため、扶養手当は支給されません。
なお、扶養手当における「扶養」の定義は、税法上の扶養の考え方にならうことが一般的であるため、「生計を同一にする」のが必ずしも「同居」は含まれず、単身赴任などで社員と同居していない扶養家族であっても、扶養手当の支給対象になるものと考えられます。
参照:No.1180 扶養控除|国税庁
また、配偶者の扶養に入るためにパートやアルバイトの収入を抑える「130万円の壁」と呼ばれる扶養基準がありましたが、2022年10月以降は「年収106万円(月額8.8万円)を超える」などの要件を満たすと社会保険の適用対象になり、配偶者の扶養から外れるため、注意が必要です。
参照:配偶者の扶養の範囲内でお勤めのみなさま - 社会保険適用拡大特設サイト|厚生労働省
次のコンテンツでは、パート労働者の方ごとにどう影響するかの確認方法をご紹介しています。
パート労働者への厚生年金の適用拡大と公的年金シミュレーターの活用
育児手当との違い
会社の独自の福利厚生制度として会社から支給する「育児手当」や「育児支援手当」は、扶養する子がいる社員に対しての現金支給やその福利厚生制度のことを指します。
支給条件は会社によっても様々ですが、国の育児支援に関する給付金と似た条件を設定し、社員と世帯を同じくする「義務教育の中学校修了までの子」や「成人年齢までの18歳までの子」がいるケースを対象とする例が見られます。
「家族手当」と「育児手当」の違いは「子どもが対象になるか否か」です。
「家族手当」には子どもはもちろん、配偶者が含まれるケースもありますが、「育児手当」は会社が支援対象に定めた年齢までの子どもに限定されます。
なお、「育児手当」と字面と概念が似ているキーワードとして、育児休暇中に給与の代わりに支給される「育児休業給付金」がありますが、これは国の雇用保険から支給されるもので別物です。
育児休業給付金は会社が納める雇用保険料から賄われるものの、会社から社員に直接、支給されるものではないため、厳密には会社が用意する福利厚生制度ではありません。
育休手当(育児休業給付金)については次のコンテンツで詳しく解説しています。
会社の育休手当の支給条件とは?育児休業給付金との違いや上限を解説
なお、他にも、会社の福利厚生制度の「育児手当」とは別に、国からの育児支援として「児童手当」や「児童扶養手当」があるので、混同しないように注意が必要です。
・児童手当:中学校修了前の子を養育する方に対して国から支給される
・児童扶養手当:18歳までの子を養育している母子・父子家庭などのひとり親の方に国から支給される
参照:児童手当法|e-Gov
参照:児童扶養手当法|厚生労働省
なお、2023年6月に「こども未来戦略方針」が示され、国の育児支援が拡充しています。
参照:「こども未来戦略方針」~次元の異なる少子化対策の実現のための「こども未来戦略」の策定に向けて~(PDF)|内閣官房
2.家族手当の相場
家族手当の相場は「17,600円(2020年調査計、1カ月分として支給された金額の平均)」です。
前回の同じ調査では「17,300円(2015年調査計)」であるため、微増の傾向が見られます。
30人~99人規模の中小企業の場合は「12,800円 (2020年調査計)」で、1,000人以上の大企業は「22,200円(2020年調査計)」であるため、他の手当と同様「家族手当、扶養手当、育児支援手当など」も、企業規模が大きいほど相場があがる傾向が見られます。
企業規模別の家族手当の平均支給額(令和元年 11 月分として支給)
企業規模・年 |
家族手当、扶養手当、育児支援手当など |
令和2年(2020年)調査計 |
17,600(円) |
1,000人以上 |
22,200(円) |
300~999人 |
16,000(円) |
100~299人 |
15,300(円) |
30~99人 |
12,800(円) |
平成27年(2015年)調査計 |
17,300(円) |
*次の参照先にある「第19表 諸手当の種類別支給された労働者1人平均支給額(令和元年11月分)」から「家族手当、扶養手当、育児支援手当など」の列を抜粋し、表として再構成
参照:令和2年就労条件総合調査 結果の概況|厚生労働省
3.家族手当の支給条件
家族手当の支給条件は会社によって様々に設定されますが、一般的に次の要素が考慮されます。
- 社員が世帯主であるか否か
- 配偶者の有無
- 子や高齢の親など扶養家族の有無
- 社員の扶養から外れる(年間106万円を超える収入があり、社員と別口で社会保険に加入する)家族の有無
一般的に、社員が世帯主であれば、その他の支給対象とみなした家族の人数で乗算して計算した金額を家族手当として支給します。
家族手当で「世帯主」の社員と制限するのが一般的なのは、社員同士が結婚した際に家族手当の二重取りになることを避けるためと考えられます。
なお、扶養家族と、扶養から外れる家族では支給額に差をつけて計算するケースもあり、その場合、共働きの配偶者が産休や育休などで一時的に扶養に入るケースなども考慮する必要があります。
なお、社員の単身赴任がある会社での家族手当では「同居している者」を家族手当の支給要件にまず含めませんが、単身赴任のない会社では「同居=生計を同一にする」と定義することがあります。
4.家族手当に関するよくある質問(FAQ)
家族手当に関するよくある質問として、次の内容を解説します。
家族手当が無い会社もある?
家族手当を始めるにあたり、就業規則に何を書くべきか?
離婚などで家族構成が変わると家族手当はどうなる?
非正規の社員の家族手当はどう扱う?
家族手当が無い会社もある?
家族手当は、法律で定められた提供義務のある「法定福利厚生」ではなく、会社の判断で導入を判断する「法定外福利厚生」にあたるため、家族手当が無い会社もあります。
家族手当の運用のためには、社員の家族の独立や離婚、死別などの事情を都度把握して管理する必要があるため、社員のプライバシーを気にする会社は、育児支援や介護支援など、支給目的を先鋭化させた手当を選ぶ可能性は高いと考えられます。
手当を含め、多様な福利厚生については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生の種類には何がある?法律や会社での種別の一覧を解説
家族手当を始めるにあたり、就業規則に何を書くべきか?
家族手当を始める際は、就業規則などにその旨を記載する必要があります。
支給対象や支給条件などの制限の明記はもちろん、「家族」の定義を明記する必要があります。
他にも家族構成や人数ごとの支給額、また、家族構成が変更された際に届出をせず不正に受給をした場合の対処等も必要です。
なお、社員の単身赴任などで補助する金額を上乗せしたい場合、家族手当とは別に「地域手当」や「勤務地手当」、「別居手当」などの名称で転地・別居をサポートする福利厚生制度を導入検討した方がよいでしょう。
離婚などで家族構成が変わると家族手当はどうなる?
社員が離婚などにより、配偶者や子と生計を同一にしなくなった場合、家族手当の支給対象から外すことが一般的です。
また、社員の家族が独立して生計が別になったケース、死別したケースも同様です。
なお、家族手当とは別の福利厚生制度として、家族の冠婚葬祭の際に一時金として慶弔見舞金を支給する会社は少なくありません。
福利厚生の慶弔見舞金については次のコンテンツで詳しく解説しています。
福利厚生の見舞金とは?慶弔災害の種類と相場と制度導入する方法
非正規の社員の家族手当はどう扱う?
正規社員と同等に働く社員がいるにも関わらず、非正規などの社員の種類によって福利厚生の待遇差がある場合、是正する必要があります。
社員の種類によって手当の支給の有無があることに合理的な理由があれば是正する必要はありませんが、家族手当や扶養手当、育児手当などについては「支給対象の家族がいれば支給」という性質のため、正規と非正規の社員の間で待遇差がある場合に合理的と認められにくいものと考えられます。
参照:働き方改革応援レシピ No.85「非正規雇用労働者にも扶養手当を」(PDF)|愛知働き方改革推進支援センター 令和3年度 厚生労働省・愛知労働局委託事業
社員の種別による福利厚生の待遇差については次のコンテンツで詳しく解説しています。
社員の種類で福利厚生が違うとどうなる?待遇差の見直し方法を解説
(執筆 株式会社SoLabo)
生23-5567,法人開拓戦略室